ローナーンの息子殺し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/09 05:28 UTC 版)
『ローナーンの息子殺し』(アイルランド語: Fingal Rónáin) は歴史物語群に分類されるアイルランドの説話。10世紀初頭成立。
『レンスターの書』とダブリントリニティカレッジ写本1553に所収され現存する[1]。
アイルランドの説話にしばしばみられる「年老いた男(王)の若い妻が若い男を愛する」というモチーフ(モチーフインデックス T92.1.1.)を持つが、 『ローナーンの息子殺し』における「若い男」マイル・フォサルティグは類話における同等の存在ディルムッドやノイシュとは異なり、 女からの愛を決して受け入れない。しかし、結局破滅的な未来を迎えるという点では共通している。 また、「好色な継母」というモチーフ(T418)も持つとされ、この点から『ヒッポリュトス』の翻案作品であるセネカの『パイドラー』とよく比較される。
主な登場人物
- ローナーン
- レンスターの王であるが、老いに伴って国内の人望を失っている。説話中ではアイドの息子であるとされるが、系譜図から言及されるUí Dúnlainge王〈コルマーンの息子ローナーン〉(Rónán mac Colmáin、624年没)と同定されている[2]。
- マイル・フォサルティグ
- ローナーンとその先妻の間の息子。男女を問わず広く人望を集めており、既に実質的な王は彼であると言える。父親の後妻から道ならぬ恋心を向けられるが、これに応えることなく逃れようとする。
- エヘドの娘
- ダンセヴェリックの王エヘドの娘であり、ローナーンの若き後妻。説話中では彼女自身の名については触れられない。父親のエヘドは説話『モンガーンの誕生』に登場する事で知られる史的人物、モンガーンの兄弟にあたる[3]。
- コンガル
- ローナーンの里子兄弟の一人。ローナーンに頼まれて彼からエヘドの娘を遠ざけようとする。
- ドン
- ローナーンの里子兄弟の一人であり、コンガルの兄弟。
- アエダーン
- ローナーンに命じられ、マイル・フォサルティグとコンガルを槍で刺殺するが、後にマイル・フォサルティグの息子の一人アイド(ローナーンの父親とは同名の別人)に殺害される。
あらすじ
レンスターの王ローナーンの若き後妻は、王と先妻の間の息子マイルに不義の恋心を抱き、これを誘惑する。 マイルはこの厄介ごとを避けるためにスコットランドへと旅立ったのだが、王がマイルを追放したのだと誤解したレンスターの人々はマイルを呼び戻すよう彼を脅迫する。
こうしてマイルはレンスターへ帰還するが、後妻は逆恨みから王に「マイルから誘惑を受けている」と事実とは正反対の嘘を吹き込み、これを真に受けた王はマイルを殺害してしまう。
これに憤慨したマイルの里子兄弟たちによって後妻の一族は滅ぼされ、彼らの首級を投げつけられた後妻も自害し、更には真相を知ったローナーンもまた後悔の中で死を遂げたのであった。
外部リンク
- How Ronan slew his Son - CELT Corpus of Electronic Texts: クノ・マイアーによる英訳
- Wie Ronan seinen Sohn ermorden ließ - CELT Corpus of Electronic Texts:ルドルフ・トゥールナイゼンによるドイツ語訳
参考文献
- ^ Fingal Rónáin - CODECS
- ^ Fingal Rónáin - The Cycles of the Kings Web Project by Dan M. Wiley
- ^ Fingal Rónáin - The Cycles of the Kings Web Project by Dan M. Wiley
- ローナーンの息子殺しのページへのリンク