鳩の頸飾りとは? わかりやすく解説

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鳩の頸飾り

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/01 13:59 UTC 版)

鳩の頸飾りはとのくびかざりアラビア語: طوق الحمامة في الألفة والألاف‎)は、1022年に神学者・法学者・詩人のイブン・ハズム994年 - 1064年)が著した恋愛書・詩集である。日本語では『鳩の首飾り』、『鳩の首輪』、『タウク・ル・ハマーマ』の表記もある。アル=アンダルスと呼ばれた中世のイベリア半島で執筆され、西方イスラーム世界の最も優れた恋愛論とも評価されている[1][2]


注釈

  1. ^ 修道女・作家のロスヴィータの言葉。彼女はコルドバについての情報をレセムンド英語版司教から得ていた。レセムンドはウマイヤ朝の外交使節としてヨーロッパ各地を訪れており、『コルドバ歳時記英語版』の著者でもある[5]
  2. ^ 近い時代に書かれた宮廷の恋愛に関する文芸作品としては、紫式部の『源氏物語』がある[6]
  3. ^ 繁栄をもたらした貿易は、ウマイヤ朝の危機も招いた。奴隷貿易でアンダルスに連れてこられたサカーリバの宦官や傭兵は、やがてカリフの後継問題にも介入し、ウマイヤ朝内紛の原因になった[11]
  4. ^ キリスト教徒のアラビア語化も進んだ。9世紀の文人パウルス・アルヴァルス英語版は、最近のキリスト教徒がアラビア語の詩歌や恋愛物語ばかりを読んでラテン語から離れてしまったと嘆いている[13]
  5. ^ 12世紀以降、アンダルスのアラビア語文献をラテン語に翻訳する活動が盛んになり、北方ヨーロッパに医学・科学・哲学などを伝えた[14]
  6. ^ ハティバは亜麻糸の産地とアルバイダ川スペイン語版の水質に恵まれて紙の製造に最適であり、12世紀にはハティバ産の紙はシャブティと呼ばれてイスラーム世界で最高級の紙になった[16]
  7. ^ 著者が不遇の時代に書いた恋愛書という点で、スタンダールの『恋愛論』とも比較される[19]
  8. ^ 恋愛論も数多く、バスラ出身の文人ジャーヒズ(776年頃-868年または869年)は『恋と女』という随筆を書いている。バグダード出身の歴史・地理学者マスウーディー(896年-956年)は『時代の諸情報』に古今の恋愛観を記録したといわれている[23]。バスラの秘密結社的な知識人サークルであるイフワーン・アッ・サファー英語版は、『百科全書』の中で純正の愛について述べている[3]
  9. ^ 恋愛詩においては、純愛によって病み衰えたり、叶わない恋によって正気を失う作品を謳ったウズラ族が有名である[25]
  10. ^ ローマ式の公衆浴場はヨーロッパの北方では失われたが、イスラーム世界に採用された。偶像崇拝を禁じるイスラーム法学の観点では、人物を描いた壁画は批判された。これに対して医学的観点では浴場の壁画は健康にもよいとされ、題材には恋人、庭園、狩りなどがすすめられた[42]
  11. ^ イブン・ハズムの属するザーヒル派は、類推(キヤース)、個人的見解(ラーイ)、合意(イジュマー)などによる妥協を認める学説に反対しており、イブン・ハズムは論敵に対して辛辣だった[56]
  12. ^ 諸王国の君主は、権力の正統性を示すために学者、詩人、芸術家のパトロンとしてもふるまった[59]
  13. ^ イブン・ハズムがウマイヤ朝への忠誠を誓い続けたのに対して、イブン・ナグレーラはタイファのグラナダ王国で働き、両者は激しい論争もしている[60]
  14. ^ イブヌル・アラビーはスーフィズムの思想家でもあり、その詩もスーフィーの神的愛(maħabba,ħubb)がテーマになっている[64]
  15. ^ ミゲル・アシン・パラシオス英語版は、『昇天の書』に書かれているムハンマドの昇天伝説がダンテの作品に影響を与えているとして論議を呼んだ[65]
  16. ^ ヴェルナーが買い集めた古書には、オスマン帝国の文人キャーティプ・チェレビーの蔵書も含まれていた[68]
  17. ^ 1933年にロシア語訳、1941年にドイツ語訳、1949年にフランス語訳とイタリア語訳、1952年にスペイン語訳、1953年に新たな英語訳が出版された。スペイン語版ではホセ・オルテガ・イ・ガセットが序文を書いている[69]

出典

  1. ^ 関根 1979, p. 219.
  2. ^ 前嶋 2000, pp. 180–181.
  3. ^ a b 関根 1979, pp. 218–219.
  4. ^ メノカル 2005, pp. 117–119.
  5. ^ メノカル 2005, pp. 30–31.
  6. ^ チェッリ 2018, p. 153.
  7. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 352–353.
  8. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 342, 357.
  9. ^ a b c 前嶋 1991, p. 330.
  10. ^ a b 関根 1979, pp. 219–220.
  11. ^ 佐藤 2008, pp. 90.
  12. ^ 佐藤 2008, pp. 90, 93.
  13. ^ メノカル 2005, pp. 64–65.
  14. ^ メノカル 2005, pp. 202–206.
  15. ^ メノカル 2005, pp. 30–32.
  16. ^ カーランスキー 2016, p. 108.
  17. ^ カーランスキー 2016, pp. 108–111.
  18. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 101, 342.
  19. ^ 関根 1979, pp. 218–220.
  20. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 57–58.
  21. ^ 前嶋 1991, pp. 324–330.
  22. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 3, 203.
  23. ^ 前嶋 1991, pp. 315–316.
  24. ^ 関根 1979, pp. 199–205.
  25. ^ 岡﨑 2014, pp. 19–20.
  26. ^ a b 前嶋 2000, pp. 177–180.
  27. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 19–20.
  28. ^ 前嶋 2000, pp. 178–180.
  29. ^ 関根 1979, pp. 134–136.
  30. ^ a b イブン・ハズム 1978, p. 70.
  31. ^ a b c d e f イブン・ハズム 1978, pp. 5–7.
  32. ^ 前嶋 1991, p. 353.
  33. ^ チェッリ 2018, p. 152.
  34. ^ a b イブン・ハズム 1978, p. 4.
  35. ^ イブン・ハズム 1978, p. 8-12.
  36. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 264–265.
  37. ^ 関根 1979, pp. 204–205.
  38. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 41–42, 81–82, 255–256, 274–276.
  39. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 296–297.
  40. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 60–61.
  41. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 65, 70.
  42. ^ 杉田 1999, pp. 43–46.
  43. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 37–38.
  44. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 249, 342–343.
  45. ^ メノカル 2005, pp. 119–120.
  46. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 14, 32, 112.
  47. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 13–14, 63.
  48. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 114, 149.
  49. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 145–147, 358–359.
  50. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 9, 54, 55.
  51. ^ イブン・ハズム 1978, p. 9.
  52. ^ a b イブン・ハズム 1978, p. 212.
  53. ^ イブン・ハズム 1978, p. 77.
  54. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 43–44.
  55. ^ 狩野 2020, pp. 15–16.
  56. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 344–350.
  57. ^ 前嶋 1991, p. 331.
  58. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 333, 340.
  59. ^ 大高ほか 2018, p. 108.
  60. ^ 鎌田 2006, p. 63.
  61. ^ メノカル 2005, pp. 107–110.
  62. ^ 関根 1979, pp. 137–138.
  63. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 122, 138.
  64. ^ 岡﨑 2019, pp. 386–388.
  65. ^ 前嶋 2000, pp. 174–176.
  66. ^ 杉田 1996, pp. 128–130.
  67. ^ 前嶋 2000, pp. 175–176.
  68. ^ イブン・ハズム 1978, p. 338.
  69. ^ a b チェッリ 2018, pp. 153–158.
  70. ^ イブン・ハズム 1978, pp. 338–340.
  71. ^ イブン・ハズム 1978, p. 340.




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