馬の用語事典 |
心臓重量
読み方:しんぞうじゅうりょう
【英】:heart mass
心臓の役割は、血圧を維持し、そして酸素を組織に運搬するために十分な血液を駆出するポンプである。馬の心臓の構造は、基本的には他の哺乳動物の心臓と同様である。遊離壁の厚い左心室から駆出される血液は、大動脈から全身の動脈へ流れる。動脈内の血圧は、血流速度(心拍出量)と血流の抵抗により決まる。この血管抵抗の主な調節器は細動脈(arteriole)の収縮または弛緩の程度である。これらの細動脈は抹消の毛細血管内の血流を調節しており、そこで赤血球内のヘモグロビンから組織細胞内のミトコンドリアへ、有酸素性代謝を支持するために酸素が拡散される。次いで血液は静脈系を経て右心房に戻る。静脈内の血流は、壁の薄い静脈を圧縮する筋収縮に依存している。呼吸運動時の腹部と胸廓内の気圧の変化もまた静脈還流を助けている。心臓に戻ってきた血液は肺動脈を経て右心室から肺に駆出され、活動筋へ再輸送するために、肺において血液は二酸化炭素を放出して再酸素化される。 一般に、哺乳動物における心臓の大きさは、体の大きさとほぼ比例しており、体の大きな動物ほど心臓も大きいが、体重当たりの比率でみるとほぼ一定している。しかし、運動の激しい動物種ほど、体の大きさの割に大きな心臓を有していることも知られている。激しい運動をしている動物は、心臓重量の体重比が0.6以上である。馬の中でもサラブレッドの心臓は大きく、体重比で0.97と重種馬のペルシュロンを凌いでいる。すなわち、競走馬の相対的心臓重量(relative heart mass)は輓馬のそれよりも大きいことが認められている(Kline&Foreman,1991)。 サラブレッドの心臓重量とトレーニングとの関係について、Kuboら(1973)が詳細な研究を報告している。サラブレッド61等の剖検時に心臓重量を測定し、生前のトレーニングの程度により、長期トレーニング群、短期トレーニング群、非トレーニング群の4群に分けて比較検討した(表6.2)。その結果、トレーニングにより心臓重量は明らかに増加し(体重比で平均1.1%まで増加)、しかも短期トレーニング群でも心臓重量が増加しており、トレーニングに対する心肥大の反応はかなり短いものと考えられる。さらに、長期間休養すると、折角大きくなった心臓も元の大きさに戻ることが示唆された。 また、オーストラリアのSteel(1963)は、心臓重量と心電図のQRS時間との間に高い相関関係(r=0.9)のあることに着目し、ハート・スコア(heart score)なる指標を考案して、これにより心臓重量を推定すると共に競走馬の能力判定に応用し得るとした。すなわち、標準肢誘導心電図のQRS時間をmsecの単位で測定し、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3つの誘導のQRS時間の平均値を求め、これを“ハート・スコア”とした。オーストラリアにおけるクラシックレースの優勝馬のハート・スコアは、すべて120以上(心臓重量で4.3kg以上)であったという。 さらに、心エコー法(echocardiography)により、耐久競技馬の心臓の大きさを評価した研究も報告されている(Paul et al., 1987)。トレーニングされた馬の平均左心室塊が2.8kgであったのに対して、非トレーニング馬では平均2.0kgであったという。 人のスポーツ医学において、長期間にわたり激しい運動をしたスポーツ選手の心臓が大きくなることは古くから知られている(henschen,1899)。このスポーツ選手の大きな心臓、すなわちスポーツ心臓(sport heart)は基本的には病的なものでなく、スポーツによる生理的適応によるものと考えられている。ドイツのReindell(1960)は、スポーツマンの心肥大に対して“調節的心臓拡張(regulative herzvergosserung)”という概念を唱え、この心肥大は長時間持続する心臓負荷に対する生理的適応で、主として自律神経系の調節の影響によるものと考えた。さらにLinzbach(1960)はこのReindellの推論の組織学的裏付けとして、スポーツマンの心肥大は“調和のとれた発育(harmonische herzvergosserung)”であると説明した。 心臓に対する負荷が増加すると、短時間内にRNAの増加が起こり、蛋白合成が行われ、個々の心筋細胞内で収縮蛋白線維が増量して個々の心筋細胞が肥大する。成熟した心筋細胞はもはや分裂しないので、心筋細胞数は増加しない。すなわちスポーツマンの心肥大は、個々の心筋線維の肥大によるものであり、しかも壁厚の心内径に対する比率が保たれる遠心性の心肥大である。
【英】:heart mass
心臓の役割は、血圧を維持し、そして酸素を組織に運搬するために十分な血液を駆出するポンプである。馬の心臓の構造は、基本的には他の哺乳動物の心臓と同様である。遊離壁の厚い左心室から駆出される血液は、大動脈から全身の動脈へ流れる。動脈内の血圧は、血流速度(心拍出量)と血流の抵抗により決まる。この血管抵抗の主な調節器は細動脈(arteriole)の収縮または弛緩の程度である。これらの細動脈は抹消の毛細血管内の血流を調節しており、そこで赤血球内のヘモグロビンから組織細胞内のミトコンドリアへ、有酸素性代謝を支持するために酸素が拡散される。次いで血液は静脈系を経て右心房に戻る。静脈内の血流は、壁の薄い静脈を圧縮する筋収縮に依存している。呼吸運動時の腹部と胸廓内の気圧の変化もまた静脈還流を助けている。心臓に戻ってきた血液は肺動脈を経て右心室から肺に駆出され、活動筋へ再輸送するために、肺において血液は二酸化炭素を放出して再酸素化される。 一般に、哺乳動物における心臓の大きさは、体の大きさとほぼ比例しており、体の大きな動物ほど心臓も大きいが、体重当たりの比率でみるとほぼ一定している。しかし、運動の激しい動物種ほど、体の大きさの割に大きな心臓を有していることも知られている。激しい運動をしている動物は、心臓重量の体重比が0.6以上である。馬の中でもサラブレッドの心臓は大きく、体重比で0.97と重種馬のペルシュロンを凌いでいる。すなわち、競走馬の相対的心臓重量(relative heart mass)は輓馬のそれよりも大きいことが認められている(Kline&Foreman,1991)。 サラブレッドの心臓重量とトレーニングとの関係について、Kuboら(1973)が詳細な研究を報告している。サラブレッド61等の剖検時に心臓重量を測定し、生前のトレーニングの程度により、長期トレーニング群、短期トレーニング群、非トレーニング群の4群に分けて比較検討した(表6.2)。その結果、トレーニングにより心臓重量は明らかに増加し(体重比で平均1.1%まで増加)、しかも短期トレーニング群でも心臓重量が増加しており、トレーニングに対する心肥大の反応はかなり短いものと考えられる。さらに、長期間休養すると、折角大きくなった心臓も元の大きさに戻ることが示唆された。 また、オーストラリアのSteel(1963)は、心臓重量と心電図のQRS時間との間に高い相関関係(r=0.9)のあることに着目し、ハート・スコア(heart score)なる指標を考案して、これにより心臓重量を推定すると共に競走馬の能力判定に応用し得るとした。すなわち、標準肢誘導心電図のQRS時間をmsecの単位で測定し、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3つの誘導のQRS時間の平均値を求め、これを“ハート・スコア”とした。オーストラリアにおけるクラシックレースの優勝馬のハート・スコアは、すべて120以上(心臓重量で4.3kg以上)であったという。 さらに、心エコー法(echocardiography)により、耐久競技馬の心臓の大きさを評価した研究も報告されている(Paul et al., 1987)。トレーニングされた馬の平均左心室塊が2.8kgであったのに対して、非トレーニング馬では平均2.0kgであったという。 人のスポーツ医学において、長期間にわたり激しい運動をしたスポーツ選手の心臓が大きくなることは古くから知られている(henschen,1899)。このスポーツ選手の大きな心臓、すなわちスポーツ心臓(sport heart)は基本的には病的なものでなく、スポーツによる生理的適応によるものと考えられている。ドイツのReindell(1960)は、スポーツマンの心肥大に対して“調節的心臓拡張(regulative herzvergosserung)”という概念を唱え、この心肥大は長時間持続する心臓負荷に対する生理的適応で、主として自律神経系の調節の影響によるものと考えた。さらにLinzbach(1960)はこのReindellの推論の組織学的裏付けとして、スポーツマンの心肥大は“調和のとれた発育(harmonische herzvergosserung)”であると説明した。 心臓に対する負荷が増加すると、短時間内にRNAの増加が起こり、蛋白合成が行われ、個々の心筋細胞内で収縮蛋白線維が増量して個々の心筋細胞が肥大する。成熟した心筋細胞はもはや分裂しないので、心筋細胞数は増加しない。すなわちスポーツマンの心肥大は、個々の心筋線維の肥大によるものであり、しかも壁厚の心内径に対する比率が保たれる遠心性の心肥大である。
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