竹中工務店が開発した「燃エンウッド」は、都心の防火地域で地上4階建てまでの“木造ビル”を可能にした。今春、その実用化第一弾となる木造オフィス「大阪木材仲買会館」が完成。10月末には第二弾の大型商業施設「サウスウッド」が横浜市にオープンする。

「燃エンウッド」実用化第一弾の大阪木材仲買会館(写真:生田 将人)
「燃エンウッド」実用化第一弾の大阪木材仲買会館(写真:生田 将人)

今年10月にオープンする商業施設「サウスウッド」(写真:日経アーキテクチュア)
今年10月にオープンする商業施設「サウスウッド」(写真:日経アーキテクチュア)

 都心の防火地域に新築する建物は、火災に強い耐火建築物にしなければならない。これまでも木造で耐火建築物をつくることは可能だったが、木材の周囲を石こうボードなどで覆わなければならず、完成後は木が見えなかった。それに対して燃エンウッドは、完成後も木が見える。

 耐火建築物を造るための木質構造部材は、大きく三つある。

 一つは、木構造部に石こうボードなどで耐火被覆を施すもの。実績は最も多いが、構造の木材は隠れる。二つ目は「鉄骨内蔵型」と呼ばれるもの。鉄骨の周りに、燃える時間を稼ぐための「燃えしろ層」の木材をかぶせる。木が見える形で使えるが、純粋な木造とはいえない。

 残る一つが「燃え止まり型」。燃エンウッドはこれに当たる。燃え止まり型は他の二つと違い、構造を純木造にできるうえ、木で空間を表現できる。部材の内側が荷重支持部、外側が燃えしろ層と燃え止まり層という構成だ。燃え止まり層は、自然鎮火が条件となる耐火建築物に必須の部分で、加熱終了後に燃焼を止める役割を担う。

 燃エンウッドでは、厚さ25mmのモルタルの板をカラマツ集成材の間に挟み込んだ。モルタル板は不連続だが、そこに至るまでに燃えしろ層の燃焼は終わり、最後にモルタルが熱を吸収して、荷重支持部には伝えない仕組みだ。2011年12月に1時間耐火集成材として国土交通大臣認定を取得した。

燃エンウッドの構造
燃エンウッドの構造

 1時間耐火認定では、上部から4層までを木造にすることが可能で、5層以上で使うには新たに2時間耐火の開発が必要となる。竹中工務店の燃エンウッドのほか、鹿島も12年3月までに燃え止まり型の1時間耐火集成材「FRウッド」で大臣認定を取得した。

 一方、5階建て以上の木質構造が可能となる2時間耐火部材の開発も進んでいる。新日鉄住金エンジニアリング(東京都品川区)は今年7月、アサノ不燃(同江東区)と共同開発した鉄骨内蔵型の木材で2時間耐火の国土交通大臣認定を取得した。不燃処理(ホウ素系薬剤処理)を施したスギLVL(単板積層材)で内部の鉄骨柱を覆ったものだ。また、シェルター(山形市)は今年7月、国産スギ集成材を用いた柱で2時間耐火試験に合格した。こちらは国産スギ集成材の周囲を耐火被覆し、さらにスギの燃えしろ層で覆った燃え止まり型だ。これは国土交通大臣認定を11月ごろに取得する見通しだ。

 こうした耐火木材の開発の背景には、日本の「林業の危機」がある。戦後に植林した樹木が活用期を迎える一方、木材自給率は3割にも満たない。国は2020年までに木材自給率を50%以上に高めることを掲げ、2010年に「公共建築物等木材利用促進法」を施行。「低層の公共建築物」については原則、木造とすることにした。 これを機に、公共建築に限らず、木造建築の普及が進むとの読みが開発競争のベースにある。