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 「メインフレームだから、基幹系だからとクラウド移行をためらうユーザーは少なくなってきた」。日本マイクロソフトの岡本剛和Azureビジネス本部マーケットデベロップメント部長は、最近のユーザー動向をこう話す。オンプレミス(自社所有)環境からクラウドへの移行対象は、サブシステムなどの軽いシステムから基幹系へと確実に広がってきた。

 そうはいっても最後の難関といえるのが、ラスボスにも例えられるメインフレームである。COBOLなどでつくり込んだ業務ロジックは複雑化し、それを処理するインフラやミドルウエアも特殊なものが多く、求められる性能や可用性が高い。しかし、そうしたラスボスでさえクラウドに載せられる近未来のシナリオが見えてきた。今、メインフレームのクラウド移行を後押しする動きは大きく2つある。

 1つは脱メインフレームのニーズの高まりだ。「2025年の崖」を覚えているだろうか。ひところよりトーンダウンしたものの、メインフレームに代表されるレガシーシステムからの脱却は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで避けて通れない課題である。

 富士通が2022年2月に発表したメインフレームとUNIXサーバーの製造・販売からの撤退発表も、そうしたニーズと軌を一にする。同社のメインフレームは2035年度末に保守期間が終了する。これまでも所有コストが高い、後継技術者がいないなどの理由から脱メインフレームの動きはあった。そこにDX推進の流れで「抱えている資産を活用しづらい」というデメリットがクローズアップされ、課題感が増したといえる。

 メインフレームのクラウド移行を促すもう1つの動きが、クラウドベンダーの移行支援策の強化だ。Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloudなどが、脱メインフレームに向けたサービス拡充を急ぐ。クラウドベンダーが描く脱メインフレームの支援策などを見ていこう。

安全重視ならリホスト

 メインフレームをクラウドへ移行する手法は大きく2つある。1つは、現状のアプリケーションやアーキテクチャーはそのままにシステム基盤をIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)に移す方法だ。一般にリホストと呼ばれる。比較的短時間でクラウドへ移行できるのがメリットだ。ただしリホストでは、ブラックボックス化したメインフレームの課題がそのままクラウド上に引き継がれる。

 これに対して、メインフレームで稼働する業務システムを分析しクラウドサービスで再構築するのが、もう1つの移行手法だ。広くモダナイゼーションと呼ばれるやり方で、クラウドが提供する各種サービスを駆使して、クラウド上で再構築するアプローチだ。アプリケーションについてもマイクロサービス化したり、APIで呼び出せるようにつくり替えたりすることで、DXに関連したサービスがつくりやすくなる。ただし、リホストよりも移行作業の難度は高い。

 どちらの手法にも一長一短があるので、まずはクラウド移行の目的を明らかにする必要がある。オンプレミス環境からの脱却だけが目的なら、リホストでも足りる。例えば、富士通のメインフレームユーザーのように2035年度までのどこかで他のプラットフォームへの移行を余儀なくされるような場合、リホストは安全な移行手法といえる。

 リホストの受け皿としてはオンプレミス環境もあるが、クラウドも選択肢になる。メインフレームとUNIXからの撤退を決めた富士通も、移行先としてオンプレミス環境だけでなくクラウドも視野に入れる。既存ユーザーに対して、同社クラウド「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud」などへの移行提案を進めるとみられる。