日産自動車は、2026年までにシリーズ式ハイブリッド機構「e-POWER」搭載車(e-POWER車)と内燃機関(ICE)車のコストを同等にする計画だ。2030年には電気自動車(EV)のコストをICE車並みに引き下げる。「電動車のデモクラタイゼーション(民主化)」を強調する同社専務執行役員の平井俊弘氏に、コスト低減や地政学的リスク回避に向けた電池と電動パワートレーンの開発方針を聞いた。
(聞き手は久米秀尚、本多倖基、伏木幹太郎=日経クロステック/日経Automotive)
2030年には3つのパワートレーンのクルマがコストで並ぶという理解でいいか。
そうだ。これを目標に技術開発を進めている。2030年まではEVが高い。コスト高になるのは、電池が安くならないからだ。
電池コストを下げるために、全固体電池を開発している。当社は全固体電池を搭載するEVを2028年に発売する予定だが、技術が成熟する時期として2030年を設定している。全固体電池のコストを順調に下げられれば、3つのパワートレーンのコストが同じくらいになる。
つまり、2030年に向けたEVのコスト低減は全固体電池を前提にしていると。
電池は、液系リチウムイオン電池(以下、液系電池)で主流のニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)を主成分とする三元系(NMC)の正極材料を使っている限りは安くならない。当社は三元系以外の材料を開拓している。
NiもMnもCoも使わない正極材料とは。
電池業界ではよくいわれている材料系だが、そんなものを今開発している。コスト上昇や調達のリスクが少ない材料を選んでいく。
全固体電池は、高コストの状態が当面続くと考えていた。2028年に実用化し、そこからわずか2年で量産規模を増やしたり生産性を向上したりして安くできるものなのか。
安くしたいと思っている。当社の横浜工場に全固体電池のパイロットラインを設置し、2024年には量産試作を開始する。すでに、そのライン向けの設備発注はほぼ済ませた。
2028年に量産する全固体電池は日産が内製するのか。
内製という表現にはなるが、当然パートナーの存在があってしかるべきだと思う。いろいろな選択肢がある。いずれにしろ巨大な投資が必要になるので、発表できるときに話をしたい。
まずは日本で造るという理解でいいか。
日本だ。
全固体電池を実用化しても、液系電池がなくなるわけではないだろう。日産は2021年11月、2028年までに液系電池の1kWh当たりのコストを現行EV「リーフ」搭載品と比べて65%削減すると発表した。
65%という数字は、当時の材料価格を前提としている。発表後、材料市況はものすごく暴れた。NiやLiは価格がかなり上昇した。現在の市況では65%削減はありえない。それに、電池の需要が強く、供給不足の状態が続いていくのでコストが自然と下がる方向にはいかない。