この10年間、被災地で生きる人々の言葉にならない声、言外ににじむ思いに、数多く接してきたつもりだ。
だからこそ感嘆しかない。NHKの朝ドラ「おかえりモネ」が、いかに丁寧な取材のもと、誠実に作られた作品であるかということに。
ご存じない方のため簡単に説明する。主人公の百音(モネ)は宮城県気仙沼市の離島、大島の出身。震災当日は仙台におり、津波を見ていない。「あのとき自分は何もできなかった」という後悔を胸に秘めるが、“より良い未来を選択するきっかけや、命を守る指針となる”気象予報の世界に飛び込み、自らと故郷を見つめ直す-そんな物語だ。
登場人物たちは皆、明るく、優しく、地元愛にあふれる。だが、その分、震災によってそれぞれにひどく傷つき、その傷を身の内に隠して生きている。
行方不明の妻を思い、荒れた生活を送る漁師。そんな父の姿を見て、「自分はしっかりしなければ」と思い込む息子。「地元に残って復興を支えるべきか、自由に生きていいものか」と悩む若者-。
この作品を見ていると、過去10年の間に触れてきた、あらゆる感情と再び出合う。
「死亡届を出せば、その死を認めることになってしまう」といい、行方不明の家族の葬儀をあげられない人。「愛する人の不在を悲しみ続けたい、苦しむことで相手を覚えていたい」という感情は、あの震災で初めて接したものだ。