森の恵み生かし、牛を元気「モリモリ」にする製紙工場…余ったパルプで飼料生産

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東北統括本部 小泉公平

 製紙会社は木材から紙を作っている。製紙業界2位の日本製紙は紙だけでなく、牛の飼料も作っている。商品名は「元気森森」だという。「モー、どうなっているの」。疑問を解消するため、同社の近藤政彦・東北営業支社長の案内で岩沼工場を訪ねた。

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山積みで保管されている木材チップ
山積みで保管されている木材チップ

新聞紙が主力商品

 岩沼工場は、仙台市から南へ約20キロ・メートル、国道4号と阿武隈川に挟まれた岩沼市の工業地帯にある。敷地面積は、約62万3000平方メートル。プロ野球・楽天イーグルスの本拠地「楽天モバイルパーク宮城」の約18個分に相当する広大な敷地で、1日約1500トンの紙を製造している。その大半が新聞紙である。

 材料は、樹木の成長を促すために森林で間引かれた間伐材や、製材にする際、不要になった端材を使う。資材置き場を見学すると、裁断された木材チップが山積みになっていた。

紙の原料となるパルプ。右は再生紙から作る古紙パルプ、中央と左は木材チップから作った化学パルプと機械パルプ
紙の原料となるパルプ。右は再生紙から作る古紙パルプ、中央と左は木材チップから作った化学パルプと機械パルプ

 このチップに薬品を混ぜ、煙突のような縦長の連続蒸解釜で煮ると、紙の原料「パルプ」が得られる。触ると、ふわふわで綿のような感触があるが、元気森森も同様の方法で作られる。詳細は後述するとして、まずは製紙の工程を見ていく。

1日で新聞1000万部相当の紙を生産

 このふわふわのパルプを使って紙に加工していくのが製紙化工程だ。新聞紙を作るには古紙パルプなどを混ぜ、さらに文字が裏抜けしないよう炭酸カルシウムを加える。これらを網に吹きつけて均一に広げ、その後、ローラーで圧力を加えながら水分を落とし、さらに熱で乾燥させると完成だ。

 最後は時速60~70キロ・メートルで紙を巻き上げ、幅約9メートル、重さ約25~30トンの巨大なロールになる。出荷する際は、新聞社の輪転機のサイズに合わせて裁断される。

完成した新聞紙のロール
完成した新聞紙のロール

 紙を作る機械は 抄紙機(しょうしき) といい、岩沼工場では定期点検以外は、3機が24時間稼働している。同工場の佐藤和文・業務課長は「新聞1部32ページで計算すると、1日で1000万部相当の新聞紙を作ることができる」と胸を張る。

余剰パルプを牛の飼料に

 ただ、悲しいかな、活字離れが進み、新聞社、出版社などの活字媒体の需要は落ち込んでいる。さらにデジタル化に伴うペーパーレスの進展もあり、需要の回復は見通せない。日本製紙連合会によると、2022年の製紙と段ボールなどの板紙を含めた需要は、ピークだった05年に比べ、約3割も減少した。

 余ったパルプを、どう活用するのか。日本製紙は養牛用の飼料に着目し、製造条件を変更したパルプを開発し、「元気森森」と名付けた。草食動物である牛は、牧草の繊維を消化吸収している。元気森森は、牛が消化できる繊維(セルロース)を、高純度に抽出したものだ。

高い消化率とエネルギー

 日本製紙は15年から、国内の研究機関と共同で、有効性に関する研究を行い、その後、畜産・酪農家の協力を得て実証実験を行った。その結果、元気森森は牧草よりも消化率が高く、トウモロコシなどの濃厚飼料並みにエネルギーが高いことが分かった。

元気森森を円柱形に丸めて黒いビニールで梱包(こんぽう)する機械。1ロールの重さは約420キロ・グラム
元気森森を円柱形に丸めて黒いビニールで梱包(こんぽう)する機械。1ロールの重さは約420キロ・グラム

 木材や牧草には消化を阻むリグニンという成分があるが、パルプは製造過程でリグニンが除去されるので、牧草よりも消化率が高いのは当然だ。驚くべきは、濃厚飼料並みにエネルギーが高いということだろう。

 草食動物である牛には牧草などの粗飼料を与えている。しかし、肉や牛乳を得る経済動物でもあり、畜産・酪農家は成長を促すために濃厚飼料を与えるようになった。牛は本来、濃厚飼料をたくさん食べることがないため、多く与えると病気になりやすいと言われている。そのため、畜産・酪農家は双方を独自に組み合わせたエサを牛に与えている。元気森森は、双方の利点が反映された商品ということだ。

健康維持で乳量、受胎率アップ

 さらに実証実験では元気森森を与えると、乳牛の乳量、乳脂肪が増量し、繁殖牛においても、繁殖成績が向上することも分かった。近藤支社長は「消化率とエネルギーの高い元気森森を食べることで、牛の健康維持を図れる。健康だからこそ乳量の増加などにつながっているのではないか」と話す。

元気森森を混ぜたエサを食べる乳牛
元気森森を混ぜたエサを食べる乳牛

 ただ、欠点もある。牛は鼻で「うまいエサ」かどうかをかぎ分ける。食べ慣れれば問題はないのだが、無味無臭の元気森森は投与初期には、避けられる傾向にある。そこで従来の飼料の1割を元気森森に置き換えることを推奨して、19年から販売を開始した。うまいエサに元気森森を紛れ込ませ、徐々に慣れさせようという作戦である。

 疑心暗鬼だった、ある酪農家は「牛の食欲が落ち、体調を崩しやすい夏場はいつも乳量が減るが、元気森森を与えることで乳量が安定した」と効果を実感しているという。

安定生産で自給率向上を

 農林水産省によると、家畜の飼料は74%が輸入に依存している。元気森森が飼料として認知されれば、海外への依存度を低下できるが、現在の販売量は年間、5000トンにも満たない。23年5月現在の畜産・酪農家は全国で5万1200戸なので、微々たるものだ。

日本製紙岩沼工場の外観。中央の塔のようなものは木材チップから繊維を取り出す連続蒸解釜だ
日本製紙岩沼工場の外観。中央の塔のようなものは木材チップから繊維を取り出す連続蒸解釜だ

 しかし、日本製紙が強調するのは、安定供給できる国産飼料の利点だ。輸入飼料は輸送網や為替の影響で価格が変化する。飼料の質も天候によって落ちるリスクがあるのだ。同社バイオマスマテリアル販売推進部の岩崎和博・部長代理は「国産の元気森森は、そのような不安定要素はない。普及に努め、飼料自給率の向上に貢献できたらうれしい」と語った。

プロフィル
小泉公平(こいずみ・こうへい)
 1967年、神奈川県生まれ。6月から仙台市の東北統括本部に所属。雪がほとんど降らない仙台でも、冬はそれなりに寒い。そこで、メジャーリーガー・大谷翔平さんの故郷である岩手県奥州市で生産された「水沢ダウン」を購入した。財布に大きな負担をかけたが、評判通り、軽くて暖かくて心も弾む毎日だ。

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4830116 0 We Love みちのく 2023/12/14 12:00:00 2023/12/14 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/12/20231211-OYT8I50073-T.jpg?type=thumbnail

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