「捕鯨文化」を守り続けたい、自販機で販売・ふるさと納税返礼品にも…商業捕鯨再開4年

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阪神百貨店梅田本店の売り場に並ぶニタリクジラの生肉(大阪市北区で)=杉本昌大撮影
阪神百貨店梅田本店の売り場に並ぶニタリクジラの生肉(大阪市北区で)=杉本昌大撮影

 日本が2019年に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開して4年がたった。日本近海でとれた新鮮な鯨肉が供給されるようになったが、期待された市場の活性化には至らず、消費の低迷が続いている。事業者や自治体は自動販売機やふるさと納税を活用して消費の裾野を広げ、捕鯨産業や食文化の維持を目指す。(山口佐和子、坂下結子)

1キロ30万円  大阪市の中央卸売市場では6月30日、ニタリクジラの取引があった。三陸沖で捕獲され、2日前に大阪港で今季、全国で初めて水揚げされたものだ。最も高価な尾の身(尾びれの付け根)に1キロ30万円の値が付き、昨年を5万円上回った。ニタリクジラとしては商業捕鯨の再開後、最高だった。

JR大阪駅前のビル内に置かれた鯨肉の自動販売機(大阪市北区で)
JR大阪駅前のビル内に置かれた鯨肉の自動販売機(大阪市北区で)

 水揚げした捕鯨大手の「共同船舶」(東京)の所英樹社長(68)は「大阪には楽しみにしてくれている業者が多い。軟らかい生肉を味わってほしい」と顔をほころばせた。大阪は古式捕鯨発祥地の和歌山県太地町と近く、古くから鯨肉の流通が盛んで鯨料理店も多い。

 鯨肉の一部は、その日のうちに阪神百貨店梅田本店(大阪市)に並んだ。赤身は100グラムあたり税込み756円、尾の身は同2700円。試食後、購入した大阪市の会社員(36)は「ほとんど食べたことはなかったが、あっさりしていて馬肉に似ている。今晩のお酒のあてにしたい」と話した。

消費量増えず  鯨肉はたんぱく質や鉄分など栄養価が高く、戦後の食卓を支えた。

 しかし、乱獲で資源量が減ったためIWCが1982年に商業捕鯨の中断を決め、日本も88年にいったん取りやめた。一方、日本は南極海などで鯨を捕獲して研究する調査捕鯨を始めた。

 その後、捕鯨の全面禁止を求める反捕鯨国との対立が続き、日本は2019年6月IWCを脱退、7月1日に商業捕鯨を再開した。

 日本には縄文時代から鯨の肉や脂を利用してきた歴史があり、国際批判を振り切ってまで再開したのは鯨文化を維持し、継承する目的があった。一方で再開後も、水産庁が漁獲可能枠を定めていることもあり、21年度の鯨肉消費量は1000トンとIWC脱退前の18年度の4000トンよりも少ない。国内では鶏肉や牛肉、豚肉の消費が中心となる中、鯨肉は需要と供給の両方が縮小し、捕鯨産業の基盤も揺らいでいる。

仕事帰りに  業者らは若者らに照準を合わせ、鯨肉を食べてもらう取り組みを進めている。

 共同船舶は今年2月、JR大阪駅前のビル内に無人販売店をオープンした。鯨肉の自動販売機3台を設置。赤身や皮の冷凍鯨肉など計22種類が、24時間購入できる。買いに来ていた大阪府寝屋川市の会社員男性(43)は「仕事帰りに、気軽に好きな鯨肉が買えるからうれしい」と話す。

 東京や横浜に続いて大阪が4店舗目。同社の織田耕造・新規事業開発室長は「若い人が鯨を食べるきっかけになり、消費につながってほしい」と期待する。

 和歌山県では年に1回、県が公立小中学校を中心に給食で鯨肉を出す取り組みを実施。対象校は17年度は307校だったが、昨年度は338校に増えた。

 ふるさと納税の返礼品として活用する自治体は増加。ふるさと納税サイト「ふるなび」によると、返礼品として新たに鯨肉の提供を始めた自治体は18年の9から、22年は41になった。出品するのは山口県下関市や和歌山県太地町など捕鯨文化が残る自治体が多い。

 下関市立大の岸本充弘特命教授(捕鯨産業史・文化史)は「鯨肉を食べる習慣は、その土地の文化と根強く結びついている。若い人にも手軽に食べてもらう環境を整えることで、食文化を守ることにつながる」と指摘する。

商業捕鯨とは

 Q 商業捕鯨とは。

 A 商業目的で鯨を捕ること。国際捕鯨委員会(IWC)が定める規制対象種の商業捕鯨は、IWC加盟のノルウェー、アイスランドと、非加盟の日本、カナダ、インドネシアの計5か国で行われている。

 Q 現在の捕獲状況は。

 A 国は捕獲を日本近海に限定。対象は、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラの3種類(今年の漁獲可能枠は計347頭)。捕獲頭数は2022年は270頭で、調査捕鯨をしていた18年度の637頭より減少。捕鯨業者の声も受け、国は24年からは、新たな大型の種を加える方向で調査を進めている。

 Q 妨害活動はあるのか。

 A 日本で唯一沖合での母船式捕鯨を行う「共同船舶」によると、商業捕鯨再開後の4年間で、反捕鯨団体による妨害や抗議活動は一度も確認されていない。水産庁は「豪州など反捕鯨国に近い南極海で操業しなくなったことが要因だろう」としている。

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4336147 0 ニュース 2023/07/11 15:00:00 2023/07/11 15:00:00 2023/07/11 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/07/20230711-OYO1I50015-T.jpg?type=thumbnail

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