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◆ポピュリズムが社会をむしばむ◆
平成が始まった1989年の米ソ冷戦終結と、その後のソ連崩壊は、自由民主主義体制の勝利と受け止められた。
30年後の現在、中国とロシアの権威主義が勢いを増し、欧州と米国では民主主義の退潮が目立つ。不透明さを増す世界で、日本は新たな時代を迎えた。
◆既成政党への深い不信
この30年、大国間の戦争は起きなかった。韓国や南アフリカ、チェコなどで民主化が進展した。冷戦終結の「果実」だろう。
人やモノ、カネ、情報の移動の速度は格段に上がり、グローバル経済とインターネットの普及は、新たな産業や快適な生活をもたらした。にもかかわらず、
欧州と米国で近年、連鎖反応のように広がる動きがある。
既成政党やエリート層に対する不信、自国第一主義、移民への敵視だ。グローバル化と技術革新から取り残された人々の反発を、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治家や極右政党があおり立て、既存の支配層を脅かす。
グローバル経済で格差が広がった。国際機関や国際協定への参加で政府の権限が制約された。こうした事情が背景にあろう。
都市のエリートと地方の労働者層、国際協調主義者とナショナリストが対立し、社会の分断・二極化が進む。極端な主張が支持を集め、中道・穏健派が存在感を失う状況は正常とは言えまい。
英国の現状は、目を覆うばかりだ。国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めてから3年近くたつのに、具体的な進路が定まらない。政府と議会が迷走し、「決められない政治」が続く。
与党の保守党、最大野党の労働党ともに、党内が離脱派と残留派で割れている。所属議員が党の理念と政策を共有し、他党との議論や妥協を通じて一致点を見いだす、という議会政治の基本が壊れた。深刻な事態である。
「EUから主権を回復し、移民を制限せよ」という離脱派の訴えは、国民投票によって一気に火が付いた。離脱にせよ残留にせよ、議会が専門的な討議を踏まえて決定していれば、これほどの亀裂と混乱は生じなかったはずだ。
国民投票の危うさを示す教訓として歴史に刻まねばなるまい。
◆分断をどう克服するか
米国も同様の問題を抱える。
トランプ大統領は議会での法制化を経ず、大統領令や非常事態宣言で移民規制の公約実現を図る。ツイッターを駆使した独自の手法で、白人労働者を中心とする支持基盤を手堅く維持している。
米国社会はトランプ氏を絶対的に支持する人々と反対する人々に割れ、メディアもこの分断に引きずり込まれているように見える。健全な民主主義とは言い難い。
野党の民主党でも、富裕層やエリートを敵視する左派ポピュリズムの力が増している。来年の大統領選に向けて、トランプ氏と民主党がともに、大衆迎合的な主張を強めていくのは間違いない。
2016年大統領選では、ロシアがソーシャルメディアを使った情報操作やサイバー攻撃でトランプ氏に肩入れしたことが明らかになっている。
干渉を許す隙を作らぬよう、分断を克服し、ポピュリズムの浸透を防ぐことが大切だ。騒乱が相次ぐフランスにも共通する課題である。
2010年に始まった民衆蜂起「アラブの春」で、エジプトやリビアなどの独裁政権が次々と倒れた。その後、民主化が進んだ国はチュニジアしか見当たらない。
中東とアフリカで続く内戦と混乱は、欧州への難民大量流入とイスラム過激派の伸長、国際テロを招いた。国際社会の粘り強い関与でこうした問題を解決しなければ、「自国第一」の排外的な主張の広がりは止まらないだろう。
◆権威主義は容認できぬ
中露両国は強権政治で国内の異論を抑え込み、欧米の混乱を横目に国際的な影響力を拡大した。
中国の習近平国家主席も、ロシアのプーチン大統領も、自らに都合の良い方向に憲法を改正し、長期政権を可能にしている。権威主義的な統治は、ハンガリーやトルコなどにも広がる。
内部対立が露呈しやすく、合意形成に時間がかかる民主政治と比べ、強権政治が政策の迅速な遂行に有利なことは確かだ。
だが、ネット空間を含めて情報や言論を統制し、国民の基本的人権を侵害する統治は、決して容認できない。民主主義の