ランニングが体によいのは間違いない。定期的な運動は、心臓の健康維持やダイエット、体重管理の役に立つ。ストレスの解消にも効果的。

ランニングが免疫系に与える影響に関しては、長期的に見ても短期的に見てもプラスというのが専門家の見解。でも、「エクササイズが免疫力を低下させ、アスリートを感染症にかかりやすくすることはあるのか」という点に関しては、どうなの? 詳しく見ていこう。 

ランニングが免疫系に与える影響

英バース大学の免疫生物学上席講師で運動生理学者のジェイムズ・ターナー博士によると、科学者たちは、エクササイズが免疫系に与える影響を短期的な視点(エクササイズを1回だけした場合)と長期的な視点(エクササイズを数日、数週間、数カ月、数年にわたり続けた場合)の両方から見る。

エクササイズを始めると、アドレナリンが分泌されて体内を走る血流量が増えるため、心拍数が上がる。そして、体は免疫細胞という特殊な白血球を呼び集め、病原体を駆逐する。

「エクササイズを始めると、数秒で免疫細胞の数が2倍から3倍になります。一部の免疫細胞は10倍にさえなりますよ」とターナー博士。低強度または高強度のエクササイズを終えて10~15分が経過すると、免疫細胞の数は元に戻る。でも、ターナー博士は、免疫細胞の数が基準値に戻るまでには数時間かかり、その間は免疫細胞の数が基準値を下回るどころか、場合によっては半分以下になると言う。

米ローウェル総合病院の胃腸科医、キャロライン・ジョーホリアン医学博士は、この時間を“オープン・ウィンドウ”(窓が開いている時間)と呼ぶ。そして、このオープン・ウィンドウの間は免疫系が抑制されて、感染症にかかりやすいという説が最近まで広く受け入れられていた。

でも、ターナー博士とジョン・キャンベル博士の研究チームは、このオープン・ウィンドウの間も免疫細胞が消えるわけではないことを突き止めた。免疫細胞は血中から出て駆逐すべき感染源を探している、つまり、本来の仕事をしているだけ。このプロセスは免疫監視と呼ばれるもので、ランニングのようなエクササイズには、このプロセスを早め、効率化する作用がある。

ランニングの長期的なメリットは?

young woman running near ocean with cloudy sky
Stanislaw Pytel//Getty Images

定期的な運動が免疫系に与える長期的な影響は、間違いなくポジティブなもの。「長期にわたって行うエクササイズとトレーニングは、炎症のないヘルシーな体内環境づくりに役立ちます」とターナー博士。

免疫系は加齢と共に間違いなく弱くなる。でも、ジョーホリアン博士いわくランニングは、その老化プロセスを遅らせて、適応(獲得)免疫系を強くする。

適応免疫系は、特定の感染症と闘うための抗体を作る後天的なシステム。老化細胞専門誌『Aging Cell』に掲載された2018年の研究結果は、サイクリングをする75歳の人たちは、運動をしない55歳の人たちよりも免疫老化(加齢に伴う免疫系の衰弱化)が遅いことを示している。しかも、この75歳のグループには、20歳のグループと同じ数の免疫T細胞(白血球の1種)が見られた。

この結果を受けてターナー博士は、アクティブな高齢者がワクチンに対してよい反応を見せる可能性も指摘する。精神神経免疫学専門誌『Brain, Behavior, and Immunity』掲載の2014年の論文も、短期的および長期的な運動は「ワクチンに対する免疫反応を著しく増強する」として、ターナー博士の見解を支持している。

ランニングは免疫力を低下させる?

オーバートレーニングは、ケガやバーンアウトをはじめとする数々の問題につながるけれど、それで病気にかかりやすくなるかどうかについては結論が出ておらず、最近の研究結果は、その可能性を否定している。

自身もランナーというジョーホリアン博士によると、60分未満の適度なランニングは、長時間のハードなランニングより体によいことが分かっている。

でも、病気とケガを防ぐには、運動で失ったエネルギーを補給して、体を十分に休ませることが非常に大切。

「栄養は重要です」とジョーホリアン博士。「免疫系が正常に働くためには、ビタミンとミネラルが不可欠ですから」

大会に向けてハードなトレーニングを長く続ける一流のアスリートは上気道感染症にかかりやすいと言われるけれど、専門家の間では、それも疑問視されている。

「運動を“しすぎる”ことが可能かどうかは、まだハッキリしていません」とターナー博士。「一流のアスリートが病気にかかりやすいという可能性を否定するつもりはありませんが、それは彼らの免疫系が抑制されているからではないでしょう」

運動・免疫学専門誌『Exercise and Immunology Review』に掲載されたレビュー論文の中で、ターナー博士とキャンベル博士は、大規模なマラソン大会に出場するアスリートたちが上気道感染症の症状を訴えたとしても、その関係性が臨床試験で実証されるケースは少ないことを指摘している。

米ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院で教鞭をとる感染症専門医のアメッシュ・アダルジャ医学博士によると、アレルギーや非感染症の症状を風邪と勘違いする人もいる。

「免疫力を低下させるのは運動ではありません。マラソン大会などで感染症の飛沫を吸い込み、あちこち触って、しっかり食べたり寝たりしないことが免疫力を低下させます」

感染症の最大の危険因子は、細菌やウイルスにさらされること。

「ウイルスには必ず侵入経路があります」とアダルジャ博士。「社会的な場でウイルスに接触すれば、ウイルスに感染する確率は高くなります。旅行や人付き合いもそうですし、多くの人が唾を吐いたり、ウォーターボトルをシェアしたりするマラソン大会もそうですね」

ストレスを感じているときや体調が悪いときも、ランニングは続けるべき?

昔の通説に反して、ランニングで免疫力が低下することはない。でも、ストレスの増幅や寝不足、不健康な食生活といった他の要素で免疫力が低下することは確実にある。

ランニングがストレス解消に役立つことは実証されているけれど、ジョーホリアン博士によると、リカバリーを怠ったり、ストレス下で頻繁に走ったりするのは、免疫系のためにならない。

ランニングで免疫力を高めても、しっかり食べて寝なければ、その免疫力は簡単に下がってしまう。「2時間しか寝ていないのに運動するのは、体のためになりません。寝不足で疲れた体をさらに傷つけるだけでしょう」とジョーホリアン博士。

風邪などの症状が首から上(喉の痛み、鼻詰まり、頭痛)にとどまっているときは、走っても大丈夫(実際に走る気がするかどうかは別の話)。その状態で走るなら、ティッシュを使って鼻をかみ、咳やくしゃみをするときは口を覆って、他の人に風邪をうつさないようにしよう。

※この記事は、ランナーズワールドから翻訳されました。

Text: Heather Mayer Irvine Translation: Ai Igamoto