「個人的には、3本の内で一番まとまりがよかったと思います。無駄がなくて洗練されているというか。ブレイド・シリーズの世界観や、親父(大塚周夫)が声を演じてきたキャラクター(ウィスラー)を説明する必要がない分、物語の展開もスピーディでした」
「そういった役の声を演じることができるのは、今だけだと思っていますから、楽しませてもらってます(笑)」
「そうかもしれないですね。きっと僕の中に“ダーク”な部分があるからじゃないですか? 隠そうとしてもつい出てしまうというか(笑)」
「芝居ばかりやってる時期があって、ある段階で親父に『お前、声の仕事をやってみないか?』って言われたんですよ。それで『うん、やる』って(笑)。それがきっかけです」
「親父は(全然違う畑の)弟とはいまだに何を喋っていいか、分からないようです。弟もそう言ってます(笑)。別世界にいると、父親の仕事なんて全然分からないじゃないですか。僕の印象といえば、家で母親が泣いてる姿ばかりで、親父はいったい何の仕事をしているんだろうと思っていました。それが、同じ役者の道を歩くようになると、遠くに父親の背中が見えるんですね。そうなってから、色んなものが見えてくるようになりました」
「(父親とは)幾度となく共演していますからね。親子というよりも、先輩の1人です。今回も特別な感慨はなかったです。残念なコメントですみません(苦笑)」
「ちょっとやっかいな“演技派”と言われる役を演じたいです。自分では、弁護士や検事など理屈で戦っていく役が得意なつもりなんですけど、誰もそういう役で使ってくれない(笑)。僕は、この商売は本来“技術職”だと思ってます。(役柄と声が)雰囲気で合ってるという部分以外で、きっちりこの仕事をしてゆきたいと考えています。テレビをご覧の皆さんが『大塚明夫は、こういう役もやるんだな』と思えるような、そして僕の声を知らない人も、違和感を感じることなく画面に引っ張られてしまう、そんな仕事をしたいですね」
「本人たちの柄から考えると、声を担当するキャラは逆だと思うんですが、当時の演出家の方の指示で、短絡的な金髪(ゲイリー・ハーシュバーガー)を山寺(宏一)が演じて、知能犯の黒髪(スティーブン・キャフリー)を僕が担当したんです。『普通だと俺たち反対だよね』って(笑)」
「この仕事は悲しい仕事でしてね……。すごく緻密ないい仕事をしても『(雰囲気に)合ってるよね』で終わりだし、合っている/合っていないという以前のヘタクソでも、『合ってないよね』という評価で終わるんです。それが宿命なんですけど、“合っている/合っていない”とは、一体どういう判断基準なのか、常に考えています。役柄のイメージに“合っている/合っていない”のを判断するのは、受け手それぞれであって、絶対的な物差しがない。普通の映画であれば、俳優本人が出ているわけですから、声が合う合わないではなく、単に演技の上手下手という判断をされます。でも声優である僕らは違う。画面に映っている人がいて、その雰囲気、それ自体もすごく曖昧なものですが、それが出せていれば、極端な話、喋っている意味が分からなかったとしても『合ってるよね』で通っちゃうんですよ。そういう評価と、どうやって闘っていけばいいのだろうと思います。難しい仕事ですね」
「決着のつかない戦いの日々が常に続くんですよ。一生続く(苦笑)。観客に対してどう作品を見せるかという意味で、(吹き替え版の)作り手側であるプロデューサー・演出家・声優の仕事はすべてが戦いなんです」
「7月16日から22日に、下北沢の楽園という劇場で沢竜二さんの一座の興行が行われるんですが、それにゲストとして出演させていただきます。ご用とお急ぎでない方は、ぜひいらしてください」
「僕らが声を演じるのは、普通は俳優です。でも、クリス(・クリストファーソン)は俳優じゃない(※クリストファーソンは、カントリー歌手)。お芝居が、普通の役者とは少し違うんです。演技をして見せようという色気が彼にはない。いわゆる素人臭さがね、いい味になってるんです。その雰囲気を生かしつつ、言葉で味つけをしてやろう、という意識が強かったですね。いつもの吹き替えのように、向こうの役者の演技に声を合わせるというのとは、少し違いました。その意味で(クリスは)一番難しい、吹き替えのやりがいがある相手です。初めて彼の声をアテたときは、『なんだこの役者は?』と思いましたが、調べたら音楽の人だったんです。言葉とは不思議なもので、ただ感情を表に出せばいいというものではない。一番いい演技は、何もしないで全部感じてもらえることです。“たたずまいで語れる”というのかな。喜怒哀楽が、ただじっとしているだけで伝わる。悪役の場合、普通に喋っているだけなのに、恐ろしさを感じさせるのが一番いいんですよ。長年役者をやっていて、悪い役もうんと演じましたが、ただ悪ぶっていればいいわけじゃない。やっていることが悪いのであって、人間性そのものはいい人かもしれない。猫をかわいがったり。だから若い後輩たちは、表面上のことだけに惑わされないようにしてほしいと思っています」
「彼も50歳に近くなりましたから、もうとやかく言うのはやめましたけど、40歳くらいまではずいぶん色々言いましたね。面白いもので、40過ぎてくると、人間は自分というものを考えるようになります。アルバイトしながら6年くらい舞台俳優をやっていると、役者というものが分かってくる。一方で、声優養成所出身の人も増えてきました。売れることも大事でしょうが、役者ってものは“いつまでできるか”なんです。少しでも長く、50年も役者を続けようと思えば、地力が必要です。声だけじゃなく、役者としての何かがないとね」
「よく言うでしょう、役者はよく遊べって。でも本当は遊んでるわけじゃない。普段の昼間の生活で、みんなの心の中が見えればいいんだけど、上司や友達、親子ですら、色々なことが複雑に絡んで心をガードしていて、相手の心の中なんて見えやしない。でも夜は休む時間だから、みんなリラックスしている。起きてる人も油断してて、本心がチラッと見えたりするんですね。例えば、私はバーで飲んでも、ママを観察します。『ママはずっと作り笑いしてるけど、彼女が一番きれいな顔するときは、どんなときなんだろう?』てね。すると、“これだ!”という瞬間がある。お客さんが帰った後でお金を数えてるときの顔です(笑)。そういう瞬間がストンと来るわけですよ。こういったことは、やっぱり外に出て行かないと気づかない。普通の人の喜びや苦悩をなるべく感じ取ることが、僕たち役者の勉強なんです。何かを感じ、少しでも欲しい。それが夢。だから(酒飲みながら人を観察して)ニタニタと笑う率が多くなっちゃう(笑)」
「ブロンソンも亡くなって、リチャード・ウィドマーク、ジャック・パランスも映画に出なくなっちゃったからね……。何度か吹き替えているんですが、ロバート・デュバルかなあ。あの人は、芝居しない顔して、実はすごい芝居をする。彼の吹き替えは続けたいですね。あとは、映画でも舞台でも一通りじゃない芝居をする人。表面上の芝居だけじゃなく、もうひとつ芝居をする人です。味や匂いがある役者さんは、同じ一行のセリフでも、たくさんの意味を込めることができますからね。歳を取ってきたからには、いい日本語、味のある日本語をしゃべりたい。『そうか……』という一言でも、言い方でまるで違ってきます。若い人は、まだまだ自分のタイミング取るので必死でしょうけど、(ニュアンスや意味を踏まえた)セリフのかけ合わせが決まると、リアリティが全然違います。言葉も演技も目に見えるものじゃないんです。“いい言葉”というのは“後に残る言葉”です。心にドンっと何かを感じさせるもの。子供でも大人でも友人でも誰でもいい、ふと心からにじみ出てくるものがいい芝居なんです。セリフは声だけの問題じゃないですよ」
「そうです、だから向こうの俳優があまり芝居が上手くないときは、やりにくい。その点クリスは、地味でもちゃんと存在感があるので好きなんです。これまではクリスに合った素人っぽい、でもハートに父性を匂わせる感じで演じてきましたし、今日の(愛娘アビゲイルに愛情を伝える)モノローグのシーンは、すごくまっとうに演じました。そうしたら息子(大塚明夫)が、『なんか真面目にやりすぎてない? (シリーズの)前の作品までは、もっとラフだったよ』と言われまして。『そう言うなよ、ここしかセリフないんだから』と答えると、『あ……そっか』(笑)。ははは、(いいシーン取られて)悔しかったのかも(笑)」
「そうですねえ……。彼が役者になるなんて全然思ってもなかったのに、ある日突然『文学座に入ることが決まったから、入学金貸してくれ』と言ってきてね。それまでは、僕の話なんて全然聞く耳もたなくて、“(親父は)役者なんてよく分からない仕事しやがって”みたいな顔をしていたのに、同じ商売をするようになって、やっと分かってくれたんじゃないかな。ちょっと飲んだときに、『お前には何にも残せてやれなくてごめんな』って話したら、『何言ってるんですか。一番大事なものをもうもらってます……役者の血が入ってますよ』と言ってくれたんです。それで、『ありがとよ』ってね(笑)。
「強く闘っている女性にも、闘っている理由があります。それは復讐であったり悲しみであったり、誰かを守る為であったり……。アビゲイルも父の死、仲間の死を背負って闘いますよね。恐怖だってあるでしょう。そんな彼女を表現出来ていたらイイのですが……。」
「そうですね、戦闘シーンはやはり自然にテンションは上がります。 色々考えるのが楽しいですよ。もちろん、実際に殴り合ったりしたことなんて無いですからね(笑)。想像するわけですよ、腹にケリを喰らったらどんな声が漏れるか……焼かれたら? 血を吸われたら? 落ちたら? 逆に自分がそれを相手にやる時は?……と、面白いですよ。」
「本当に難しい作業だと思います。台本と映像から、全てのキャラクターのバックグラウンドを探って行くんですもんね。そしてジェシカ・ビールとまったく同じ芝居は出来ないわけです。でも、だからこそ面白いですよね。 私は、吹き替え版の監督のもと翻訳、キャスト陣で新たな作品を作る気持ちで臨んでいます。そして、それが吹き替え版の魅力だと思っています。やり甲斐がありますよ!! 楽しくて仕方ありません。」
「ブレイドはもちろんですが、ハンニバル、アビゲイルのアクションも素晴らしいので必見です!! アビゲイルの、ウィスラーの言葉を振り返りながらのシャワーシーンは印象的で綺麗なシーンでした。もう、見どころ満載ですよ!」
「ズバリ、映画の中の“その人”になりたかったんです。声優という職業は、その小さい頃からの私の夢を叶えてくれるお仕事でした。」
「キャットウーマン!? 『バットマン』に登場したミシェル・ファイファーのキャット・ウーマンは衝撃的でした。悲しくて美しくて。そうです、本田はアメコミ好きです(笑)」
「誰をやりたい、というのはありませんが…… 私、こう見えて恋愛映画、ファンタジー映画大好きなんです。「運命」とか弱いです(笑)。そんな作品に参加出来たら嬉しいですね。うーん、でもやっぱりアクションもヒューマンドラマもホラーも大好きですよ。これからも素敵な作品をたくさん吹き替えられることを願っています!!」
「はい、がんばります(笑)」
「制作会社の演出職募集に応募したのがきっかけです。自分のタイプ的に、“こもって”する仕事の方が向いてると思ったんです。今日みたいな収録の日は共同作業になりますが、演出は準備段階は1人で黙々とする作業が多いので。最初から吹き替えの演出を考えていたわけではなかったのですが、映画や芝居が好きで、流れ流れて今に到りました」
「最初の会社に7年いて、その後フリーになって12年ですから、20年近くになりますね。当初から、テレビ東京さんにはお世話になっています」
「これも時代の流れです。20年前なんて、それこそパソコンもインターネットもない時代でしたから。今の機材はデジタルですが、最初は録音したテープを切ってつないでセリフ合わせをしていましたからね。その時代は、もっと収録全体が間延びしていて、ディレクションも緩かったと思います。休憩もゆっくり取っていました。今は録ったそばからどんどんチェックできますので、ゆっくりやっているわけにもいかない。今回は、大塚周夫さん、大塚明夫さん、谷口節さんは慣れてるメンバーですし、みなさんベテランですから、ツーと言えばカー状態で、スムーズに進行できました」
「いろんなことが変わりました。世間的にもカセットのウォークマンがiPodになっていますしね。アナログからデジタルに一斉に変化し、映像もCGになり、声の世界でも同じです。今から振り返れば、昔は信じられない世界だったかもしれません。『ココで止めて、ハイハイ、次はココから録りましょう~』なんて、昔は機材の仕組み上、できませんでしたよ。一旦芝居が始まると、なかかな止められませんでした。音と映像を一緒に出してチェックすることができないので、本当に勘の世界でした。ただ、その方が役者さんは緊張感があって、いい芝居だったりしたんじゃないかなあ。今は、どうしてもすぐに止めることができますからね。私の場合は、基本的に大きな間違いがない限りは、途中で止めません。録り直す場合でも、役者の流れとして一旦やってもらって、最後にもう一度部分収録という形でやってます」
「今はCSやBS、DVDなどが普及して、映画をCMなしでフルに見られる時代です。でも地上波のテレビで映画では、当然カットという作業があります。今回の『ブレイド3』も、全編だとまどろっこしいシーンがあるんですよ。監督(デヴィッド・S・ゴイヤー)にとっては重要なシーンかもしれませんが、僕らが観ると“なんでココはこんななんだ?”というシーンがあるんです。そういったシーンは、メイン・ストーリーに関係ない限りは、カットさせてもらってます。ですから、テンポはすごくいいと思いますよ。もちろんアクション・シーンはカットしていません。売りであるアクションを満喫できて、ストーリーもよく分かる、しかもテンポもいい。それを心がけました。地上波放送は、十何分かおきにCMが入りますので、それに合わせて面白いシーンを配分することもあります」
「去年は確か“吹替放送50周年”でしたが、最初に吹き替え版にしようと考えた人は、素晴らしいと思います。もし字幕だったら、子供のころに放送していた海外のテレビドラマを、私は観ていなかったでしょうね。全部吹き替えだったからこそ、面白いと思えたんでしょうし、吹き替えは本当に当時の知恵だったと思います」
「一般的には、何人か候補を出して、放送局さんと詰めていくて作業になるのですが、私が“この人を使いたい”と思っても、スケジュールが合わない等で使えない場合があります。“この声は絶対にこの人で!”と思うこともありますが、その人が決まらないと何もできない。だったら、別の人だとどうなるかなとか、ちょっと老けるけどこの人だと面白そうだよねとか、この役は若い方が勢いあるんじゃない?とか、その合意点を見つけていく作業が一番大切になります。僕の感性、プロデューサーの感性、他の人の提案もあるでしょうし。ディレクターがキャスティング権を持ってはいますが、やはり関わる人たちの意見を汲み取らないと、上手く進められませんね」
「他の作品であまり主役を張らない人を、自分が起用して、いい結果が生まれれば達成感はありますね。でも逆に、自分とはまったく違う発想で、同じ人が他の作品で起用されていて驚いたり、それによって“今度は彼をこういう風に使ってみよう”と自分の選択が広まったりすると、それはそれで嬉しいです。(吹き替え制作に関わっている方は)常に試行錯誤してると思います。吹き替え版の製作本数は増えているのに、主役を張れる方は限られるので、(役者の)取り合いみたいな状況もあります。もちろん予算の問題もあります。その中で、どれだけみんなが合意できるか、この世界はそれを上手くやってゆくしかないと思います」
「ブレイドは大塚明夫さんの持ち役ですし、(大塚)周夫さんもいらっしゃる。実は、ドレイクの役がなかなか決まらなかったんです。結果、谷口節さんに決めましたが、最後の敵としてワルとしての重みをちゃんと出せるという意味で、彼でよかったと思います。アビゲイル役の本田貴子さんも、本編をパッと見て彼女に決まりだと思っていたら、テレビ東京さんからも彼女にアビゲイル役のオファーが入っていて。『ああ、やっぱり』と(笑)。格闘シーンの声も本人に演じてもらうと、体育会系ノリになって面白いんですが、元々のM+Eトラック(※吹き替え版を作るための、セリフ以外の音楽や効果音が入った音声トラック)に格闘の掛け声が入っていたので、そちらの音を生かしました。できればブレイドとドレイクの最後の対決くらいは、声優さんの掛け声を収録したかったですけど」
「私がこの業界に入って本格的にたずさわったのが『木曜洋画劇場』で、以来ずっと一緒にやらせていただいてきました。一番は勉強になっているのは“カット”です。ヤマが来て落ち着いて……というふうに、どこをカットすれば面白くなるか、これについては本当に経験を積ませていただきました。お尻の番宣(次回予告)を作っていた時代もありまして、“映像はこう繋ぐとこうなるんだな”とか。ミッキー・ロークの主演作『死にゆく者への祈り』も思い出深いです。この作品では、有名な俳優さん(※時代劇などで活躍する松橋登と思われる)を主演の声で起用し、テレビで見たことのある人との初めての仕事ということで、かなり緊張したのを覚えています(笑)。ほかにも色んな作品の仕事をやりましたが、『スパイ・エンジェル』シリーズというのがありましてね、これがなかなか忘れがたい(笑)。セクシー&アクションで、内容的には“ごちそうさまです”といった作品でした(爆笑)。『木曜洋画劇場』は、私にとっては、本当に“学校”みたいなところです。木曜21時『木曜洋画劇場』という枠の認知度はすごくありますから、その灯を絶やさないように、今後も関わっていくことで番組の力になっていければ、と思っています」
(取材・構成:村上健一)
協力:(株)フィールドワークス supported by allcinema ONLINE