<社説>DVと中絶同意 自己決定権も考えたい

2021年4月2日 07時29分
 人工妊娠中絶には原則「配偶者の同意」が要るが、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害女性には不要との方針を厚生労働省が示した。周知とともに同意の必要性自体を考える機会にしたい。
 母体保護法は人工妊娠中絶について、本人と配偶者双方の同意が必要と定めている。ただ、配偶者が死亡したり、行方不明になっている場合、また意思表示できない際は本人同意のみでよく、性暴力を受けたケースも例外としている。
 昨年十月にも、厚労省は同法の解釈について「強制性交の加害者の同意を求める趣旨ではない」と事務次官名で通知している。今回の方針は日本医師会の照会に答えたもので、従来の見解をさらに一歩明確化した。望まない出産の悲劇を減らせる点で歓迎したい。
 ただ、病院やクリニックの現場は慎重だ。DV被害を聞いて、本人同意のみで手術した結果、夫から脅迫的なクレームを受けたり、訴訟になった例もあるためだ。このため手術を拒まれ、望まない出産に至った女性は少なくない。
 配偶者のいない女性の場合も法的には本人同意のみで足りるが、医療現場では相手男性の同意を求める運用が一般的だ。医師にとっては、自らの立場を守るために仕方がない側面もあるのだろう。
 DVのケースでも医療現場に徹底するには、DVによる婚姻関係の破綻をいかに判断するのか、相手男性とのトラブルから医師をどう守るのかといった、より現場に寄り添った対応が不可欠だ。
 一方、「配偶者の同意」そのものが不要だという声も強い。
 一九九四年の国連・国際人口開発会議では、産むか産まないかを選び、決める権利は女性の基本的人権の一つであるという「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」の概念が提唱された。国連女性差別撤廃委員会も二〇一六年、日本政府に「配偶者の同意」要件そのものの撤廃を勧告している。
 刑法にはいまも堕胎罪が存在するが、一九九五年に開かれた世界女性会議では「違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含む法律の再検討」を求めることが行動綱領で採択された。
 言うまでもなく、産める、産みたい社会を整えることは政治の責務である。同時に、産むか産まないかをめぐる女性の自己決定権はジェンダー平等の土台といえる。法改正も視野に入れた議論の活性化が必要な段階にきている。 

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