処理水の海洋放出を開始 東京電力福島第1原発 「不安な思いは増している」と漁業者団体

2023年8月24日 19時06分
 東京電力は24日、福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)にたまる汚染水を浄化処理した後の水の海洋放出を始めた。風評被害を懸念する漁業関係者らが反対する中、「政府が『一定の理解を得られた』と判断した」として、放出に踏み切った。
 事故から12年5カ月余がたち、処理水の保管タンクの限界という危機は避けられることになった。しかし、汚染水の発生を止める具体策はなく、放出の長期化は必至。計画では、廃炉完了まで約30年続く。
 東電はこの日、処理水と海水を混ぜて放出する水の放射能濃度の測定結果を発表。浄化設備で取り除けない放射性物質トリチウムの濃度は、最大で1リットル当たり63ベクレルで、政府方針で定めた放出時の排水基準(同1500ベクレル)を下回った。
 測定結果を受けて午後1時3分、運転員がパソコンの画面を操作して水を送り出す作業を始め、放出を開始。海底トンネルを通じて沖合約1キロの海底から放出された。今後、24時間態勢で放出を続け、17日間で計7800トンを流す。
 2023年度には4回に分けて計3万1200トンを放出する計画。一方で、汚染水は毎日発生して処理水も増え続けるため、年度内に減らせる処理水の貯蔵量は約1万1200トンと、総量の約0.8%にとどまる見通しという。
 全国漁業協同組合連合会は放出開始後、「放出に反対であることはいささかも変わらない。国が全責任を持って放出を判断したとはいえ、不安な思いは増している」との会長声明を出した。(小野沢健太)

◆白く泡立つ水槽…海洋放出開始の瞬間は

東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が始まり、海底トンネルに直結した立て坑に流れ込む海水で希釈した処理水=24日午後1時54分、本社ヘリ「おおづる」から

 海底トンネルにつながる水槽が、白く泡立っていた。東京電力が福島第1原発の汚染水を浄化処理後の水を海へ流し始めた24日午後1時すぎ、本社ヘリ「おおづる」で原発上空を飛ぶと、放出される水が水槽に勢いよく落ちていく様子を確認できた。
 東電が放出作業を始めた午後1時3分、5号機の海側にある放出前の水を一時的にためる水槽の周りに、大勢の作業員や関係者らが集まっているのが、1600メートル上空から見えた。
 その10分後、水槽の様子が変わった。みるみるうちに水位が上がり、水が白く濁った。機内で写真を確認すると、まさに水槽へ水が流れ込んでいた。海洋放出が始まった瞬間だった。
 水槽に落ちた水は、海面との水位差で自然に海の方向へ押し流され、沖合約1キロの海底にある放出口から海へ出る。(山川剛史)

 東京電力福島第1原発の処理水 1〜3号機内の溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却作業で発生する汚染水を「多核種除去設備(ALPS=アルプス)」で浄化処理した水。主に放射性物質トリチウムが除去できずに残る。8月時点の貯蔵量は約134万トンで、タンク総容量の98%。ALPSは稼働初期の性能が低く、処理水の約7割は浄化が不十分。放出するには、再び処理する必要がある。


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