どうなる?ラジオの未来 AMからFMへ統合、来年にも試行

2023年5月21日 11時58分
 民放ラジオ各社が、設備の維持や更新に負担の大きいAM放送からFM放送に転換する方向性を打ち出してから2年。実験的にAM放送を休止して影響を検証する取り組みが、早ければ来年2月に始まる。ただ、関東1都6県の民放AM事業者で実施予定は茨城放送のみ。FM放送の環境は整いつつあるものの、ワイドFM(FM補完放送)の受信端末の普及や周知が足りていないためだ。 (住彩子、石原真樹)

◆巨額の設備投資が壁 端末普及、道半ば

 民放AMラジオ全四十七社でつくる連絡会が「二〇二八年をめどにFM局への転換を目指す」と発表したのは二一年六月。AM放送はFM放送に比べて施設が大規模で、設備更新はFM親局が四千万円ほどに対し、AM親局は二十億〜二十五億円かかるとされる。
 ラジオ業界も経営環境は厳しい。電通の発表によると、二二年のラジオ広告費は千百二十九億円。コロナ禍前の千二百六十億円(一九年)にまで回復していない。総務省の資料では、二一年度の一社あたりの営業利益の平均が、黒字のFM事業者に対し、AM事業者は七年連続で赤字だ。

◆災害時の情報は

 FM波とAM波は、音声を電気信号に変えて飛ばす仕組みが違う。AM波は波長が長く広範囲に届くが、建物内で聴きづらくノイズが入りやすい。一方、FM波は波長が短く届く範囲がAM波より狭くなるものの、高音質で音楽の放送に適している。「トークのAM、音楽のFM」といわれる理由がここにある。
 AM放送の休止とは別に難聴地や災害の対策として進められてきたのが、AM放送を同時にFMで放送するワイドFMだ。電波を広範囲に届けるAM放送だが、送信所の立地は低地、平野という条件が付く。そのため海や川に近い場所が多く、大規模な自然災害で被災するリスクが高い。
 利点ばかりに見えるFM放送だが、海外にまで届くAM波に比べ、最大で百キロ程度。FM転換した場合も地域全てをカバーするには中継局を複数設置し、そのための設備投資が必要となる。四十七社のうちエリアが広い北海道と、秋田県の計三社は転換を見送った。
 また、古いラジオ端末はワイドFMを受信できないため、対応できる端末を購入してもらう必要がある。総務省によると、二二年度の調査で車やポータブルラジオでワイドFMを聴ける人の割合は48%。車の買い替えなどで普及は進んでいるが、まだ半数がワイドFMを聴けない状況だ。

◆カバー率が課題

 名古屋大大学院の小川明子准教授(メディア論)は「AM放送しか聴けない地域をどうするのか」と指摘する。放送法では「放送対象地域において、当該基幹放送があまねく受信できるように努めるものとする」との規定がある。
 一方で、インターネット経由でラジオを聴く「radiko(ラジコ)」の普及など、放送波以外での取り組みでラジオは、テレビの先を行く。小川准教授は「ポッドキャストなど声のコンテンツは間違いなく増える。ながら視聴もライフスタイルに即している。ラジオにはまだまだ可能性がある」と話す。
 来年二月にも始まる実験的にAM放送を休止する取り組みは、希望事業者が今年十一月に放送免許を更新する際に総務省に申請し、休止三カ月前から周知広報した上で実施される。
 AMラジオのキー局であるニッポン放送、TBSラジオ、文化放送はいずれも実施しない。関東平野は電波が広く届きやすい特性があるため、三社とも送信所が親局一カ所(順に千葉県木更津市、埼玉県戸田市、同県川口市)しかないことが大きな理由だ。
 三社はFM送信所も東京スカイツリー一カ所で、高さがあるためAM放送エリアをおおむねカバーできているが、北関東に届かない場所がある。また「肌感覚では(自局の)AMとFMのリスナーは半々でなく、まだまだAMが多い」(TBSラジオの塩山雅昭UXデザイン局担当局長)として、AMを休止した場合に影響が大きいとみる。

ニッポン放送、TBSラジオ、文化放送の民放ラジオ局のFM送信所にもなっている東京スカイツリー

◆実施は茨城放送のみ キー局見送り

 中継局がある社はそこを実験に使える。この方法で実施を予定するのが茨城放送だ。水戸の親局は残し、土浦(土浦市)と県西(筑西市)の二カ所のAM中継局を休止する。
 FM補完局のつくば(つくば市)と日立(日立市)がともにワイドFMに対応していない端末で聴ける周波数であることが同社の強みだが、出力が大きい水戸のFM親局の周知は課題だ。阿部重典社長は「テレビの地デジ化の時と違い、AMが完全になくなるわけではないので社会に深刻さがない。自治体なども周知に協力してほしい」と訴える。
 このほか関東では、演歌や歌謡曲に力を入れるラジオ日本が「リスナーの年齢層が比較的高く、AMで聴かれる割合が高いと推察される」(西村泰男常務)として実施しない方向で検討。栃木放送は「ワイドFM受信端末の普及状況が不明」のため未定という。
 長年親しむAMからFMに切り替えてもらうため、「(聴くだけで心地よさを感じる音などを指す)ASMRを放送する番組を『ワイドFMで聴いて』と呼びかける」というのは、文化放送の奥沢賢一アドミニストレーション局長。放送の中でFM周波数をAMより先に読み上げるなど、各社とも地道な努力を続ける。
 現在のラジオ聴取に欠かせないラジコだが、ニッポン放送の森谷和郎特命参与は有用性を認めつつ「遅延や輻輳(ふくそう)(アクセス集中)の課題があるのも事実。緊急時は放送が重要になることも念頭に置く必要がある」と指摘する。

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