国民総所得「10年で150万円増」のはずが…たった半分 アベノミクス初期の政府目標は達成困難に

2023年4月21日 06時00分
 政府が2013年6月にまとめた「日本再興戦略」を巡り、1人当たりの名目国民総所得(GNI)を「10年後に150万円以上増やす」とした目標の達成が困難となった。目標額の半分しか届かない見通しで、生産性や賃金が上がらない日本経済の停滞を示す。岸田政権は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の教訓を生かし、低成長から抜け出す道筋を描けるかが問われている。(近藤統義)

 国民総所得(GNI) 「国内」で生み出された付加価値に着目したGDPに、「国民」という概念を用いて個人や企業が海外から受け取った利子や配当を加えた統計。これを人口で割ったのが1人当たりGNI。企業の所得も含むため、家計の収入そのものを意味するわけではない。日本企業のグローバル化が進んで海外での稼ぎが膨らみ、GNIとGDPの差は広がっている。

 12年末に発足した第2次安倍政権は、再興戦略に民間投資の活性化や成長分野の開拓、海外市場の獲得などの施策を盛り込み、国内総生産(GDP)を10年間の年平均で名目3%、実質2%伸ばすと明記。その上で、GNIは1人当たり150万円増を掲げた。
 GNIは国内で生産されたモノやサービスの価値総額を示すGDPに、日本人や日本企業が海外で稼いだ所得を加えた指標。名目で12年度は514兆円、1人当たり403万円だった。22年度の実績はまだ公表されていないが、政府予測で595兆円、1人当たりで換算すると477万円程度になる見込み。10年間の伸びは75万円ほどにとどまる。
 政府が「十分可能な数字」(内閣官房)としていたシナリオ実現には、当時から懐疑的な見方も強かった。企業業績や雇用情勢は改善したものの、消費税率引き上げやコロナ禍などもあり、名目GDP成長率が3%に達したのは15年度だけ。経済の実力を示す潜在成長率は10年間で0.9%から0.3%に下がった。
 産学の有識者でつくる「令和国民会議(令和臨調)」は1月末に発表した提言で経済停滞の責任は民間にあるとした上で、「政府は景気刺激のための歳出拡大を優先し、成長力の向上に不可欠な構造改革や規制改革を先送りしてきた」と指摘。金融政策、財政政策と並ぶアベノミクスの「三本の矢」に位置付けられた成長戦略の効果が限定的だったとみる。

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