北ミサイル着弾海域で操業中の日本漁船「2019年以降8隻」判明 本紙と国際NPO調査 脅威は現実的

2023年3月19日 21時03分
 北朝鮮が発射を続ける弾道ミサイルについて、本紙は国際NPO「グローバル・フィッシング・ウオッチ(GFW)」共同研究者の石村学志岩手大准教授(資源経済・政策学)らと連携し、日本の漁船にもたらす危険性を調査した。2019年以降の計5発について、着弾の影響が想定できる半径150〜300キロの海域を定め、日本漁船の位置情報を解析。計8隻の操業エリアと重なり、ミサイルが現実的な脅威であることが確認できた。調査結果は28日開幕の日本水産学会春季大会で発表する。(前口憲幸)

 グローバル・フィッシング・ウオッチ(GFW) 米国の大手インターネット関連企業「グーグル」、人工衛星を活用する環境保護団体「スカイトゥルース」が共同で設立。2017年に独立の非営利団体となった。IUU(違法、無報告、無規制)漁業の根絶を目指し、世界の漁業活動を追跡、データ化している。

◆公表ミサイル情報と船舶位置データを照合

 防衛省によると、北朝鮮のミサイル発射は22年に過去最多の59発に上るなど頻度を増している。今回の調査では19年以降に発射した計98発のうち、日本海の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した4発と、青森県上空を通過し、過去最長距離を飛んだ1発を対象に選んだ。
 着弾点の座標(緯度経度)は公開されていないため防衛省や韓国軍の公表範囲内の情報に基づき、日本国内の特定地点からの方角、距離などで座標を推定。はえ縄漁や底引き網を引っ張るトロール漁では仕掛けの長さが100〜150キロに及ぶため座標から半径150キロを仕掛けの破損や残留燃料による海洋汚染が想定できる影響海域と定めた。最長距離の1発のみ誤差の大きさを考慮して半径300キロとした。
 漁船の操業エリアはGFWが人工衛星ネットワークで収集、蓄積した船舶自動識別装置(AIS)の位置データを使って割り出した。日本で唯一、GFWの詳細なデータへのアクセス権を持つ石村准教授と武蔵大の阿部景太准教授(資源経済学)らが解析を担当。漁船は数日間、一定の海域で操業するため、発射当日と前後2日の計5日間に影響海域で操業していた船を抽出した。
 その結果、19年10月2日に島根県隠岐諸島の島後どうご沖の北約350キロに着弾した事例で、イカ釣り船など2隻を確認。21年9月15日に石川県能登半島の舳倉へぐら島沖約300キロに着弾した事例では、2隻が計30時間近く操業していた。
 22年10月4日、青森県上空を通過し、岩手県釜石市の東約3200キロのEEZ外に着弾した事例では4隻が計153時間にわたって域内を頻繁に行き来し、マグロ類やカジキ類のはえ縄漁に従事していた。
 石村准教授は「漁船の存在は『点』だが、漁獲活動は『線』や『面』となる。北朝鮮ミサイルが日本の漁船の操業エリアに撃ち込まれていることは確実で、漁業者が危険性を判断できるよう政府はもっと情報公開してほしい」と話した。

◆政府は情報公開に消極的…識者が指摘する「危うさ」とは

 北朝鮮の弾道ミサイルはどこに落ち、近くに漁船はいたのか—。日本政府は北朝鮮ミサイルの脅威を訴え、防衛力の強化に躍起となる一方で、漁船への注意喚起や情報公開には消極的だ。
 政府は弾道ミサイルが日本の領土・領海に落下したり、上空を通過する可能性がある場合は全国瞬時警報システム(Jアラート)で情報を伝え、地下への避難などを呼びかける。領土・領海以外でもEEZ内に着弾する可能性があれば漁船に別の警報を出すが実態は極めて心もとない。
 内閣官房や水産庁が連名で全国の漁協にメールで連絡し、各漁協が無線局を通じて所属漁船に自動音声で伝達する。その内容は「発射」されたことと「落下」したことを伝えるのみで、迅速さや具体性に乏しい。着弾後、漁業者が情報を知りたいと思っても「ホームページで調べてほしい」(防衛省報道室)とにべもない。
 本紙が着弾点の座標や着弾直後に開かれた国家安全保障会議の議事録を情報公開請求しても非開示か、開示されてもほとんどが黒塗りだった。防衛省報道室は「日本の情報収集能力が明らかになる恐れがあるため」などと説明する。
 軍事評論家の前田哲男さんは「ミサイルの着弾座標は具体的な防衛計画の内容ではなく、非公表というのは通用しない」と指摘。「漁業者の生死に関わる情報すら開示しないのは秘密の領域が大きすぎる。『国防上の秘密』という聖域が拡大していく危うさを感じる」と話した。

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