新築戸建てに太陽光発電の義務化 専門家は対立、都民も賛否両論、でも都議会各会派は「ほぼ賛成」

2022年12月10日 06時00分
 新築一戸建て住宅などに太陽光発電パネル設置を義務付ける全国初の条例改正案の議論が東京都議会で始まる。各会派は脱炭素化に向けた取り組みに好意的で、条例改正案は成立の公算が大きい。ただ、都民の賛否は拮抗きっこうし、専門家の意見は真っ向から対立している。(沢田千秋)

東京都台東区の上野動物園で都が設置した太陽光パネル(都提供)

 東京都の太陽光パネル設置義務化案 昨年9月、小池百合子知事が都議会の所信表明で初めて言及。2030年の都内の温室効果ガス排出量を00年比で50%削減するカーボンハーフに向けた取り組みの一環。今年5月から1カ月間のパブリックコメントでは賛成56%、反対41%、不明3%。義務化を定めた都環境確保条例改正案は、一戸建てを含む延べ床面積2000平方メートル未満の新築建物は住宅メーカーに設置義務を課す。供給棟数と日照条件を考慮した発電総量を満たさない場合、事業者名公表の対象となる。施行予定は25年4月。

 6日、都庁で、太陽光パネル義務化の反対派、推進派が2時間違いで記者会見を開いた。双方が「最大の問題」と位置付けたのは中国の人権問題だった。
 反対派を率いた杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は「世界の太陽光パネルのシェアの大半は中国が占め、その半分は、ジェノサイド(民族大量虐殺)が行われた新疆ウイグル自治区産とされる」とし、「太陽光発電を義務付ける都は、どう責任を負うのか」と憤った。
 一方、推進派として会見した太陽光発電協会の増川武昭事務局長は「太陽光発電産業の人権問題に関する取り組み宣言」を紹介。太陽光設備に関わる加盟全120社が、中国などのメーカーに人権問題の有無などを確認すると明言した。
 「太陽光発電の義務化で経済格差が生じる」と主張した常葉大の山本隆三名誉教授は「太陽光パネルを設置できるのは、新築一戸建てを取得できる高所得世帯」と指摘。自宅で発電した分、再生可能エネルギー普及向けの負担金や送配電網の利用料が減るため「パネルがある高所得家庭の負担減少分を、賃貸などでパネルを設置できない低所得家庭が負うことになり、社会全体の満足度は下がる」と強調した。
 推進派のまとめ役だった東京大大学院工学系研究科の前真之准教授は会見に際し「太陽光発電のメリットを完全に無視し、課題を針小棒大に触れ回り、普及を阻害しようとする意見が存在する」と語気を強めた。
 経済格差への懸念については「昼間の電気料金の値下げが進み、国民全体に恩恵をもたらす」と反論。さらに「破滅的な地球温暖化を防止するために2025年までが勝負。無尽蔵の太陽エネルギーで高騰する電気代を安くでき、停電時も使える。確実に初期コストを償却できる数少ない手法」と強く推した。
 正反対の意見をぶつけ合う専門家の熱さに比して、都議会はほぼ賛成の「ぬるい」空気感だ。公明は、太陽光パネル設置が、住宅を購入する個人にとっては義務でなく選択できる点を評価。義務を負う住宅メーカーが発電総量を満たせば、全ての住宅に設置する必要がない制度を都が作り上げたからだ。
 慎重姿勢の自民は「総論で言えば賛成」としつつ、「義務化を不安視する事業者や都民のため、来年の予算特別委員会で丁寧に議論していい。2030年までに1000億円以上を投じる事業。もっと時間をかけたい」と注文を付ける。
 ほかにも、太陽光パネル設置に伴う住宅価格上昇をいかに抑えるか、大規模水害時に水没した太陽光パネルが及ぼす漏電の危険性など、課題は残る。審議は12日の環境・建設委員会で行われる。15日の本会議で可決の見通し。

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