シアン流出 59件報告せず 日鉄君津「担当職員らの認識不足」

2022年10月1日 07時25分

シアン流出問題について謝罪する谷潤一所長(右から2人目)ら=県庁で

 日本製鉄東日本製鉄所君津地区(君津市)が毒物「シアン」を周辺に複数回流出させていたのに報告せず、県に行政指導を受けた問題で、同社は三十日、報告書を県などに提出した。シアン検出を報告しない同様のケースが、過去五年間で計五十九件に上ることが新たに判明。同日県庁で会見した谷潤一東日本製鉄所長は「環境への意識が不十分だった」と謝罪した。(加藤豊大)
 シアンは大量に人体に入った場合死に至る危険な毒物。東京湾へとつながる排水口から少しでも検出したら、県に報告することになっている。製鉄所内の排水溝の場合でも、一リットルあたり一・五ミリグラム超の検出で報告する決まりだ。
 日鉄がまとめた報告書や会見によると、基準以上のシアンを確認したのに県に報告しなかったのは、二〇一七年八月〜今年八月で五十九回。最大検出値は排水口で同〇・九八ミリグラム、排水溝で同二・六ミリグラムだった。原因として、処理水をためる水槽内の排水ポンプの故障などを挙げた。
 県に報告しなかった理由について、谷所長は「(水質汚濁防止法に基づく)法定測定については、再測定後に基準内に収まれば報告は不要、自主検査はそもそも全ての結果報告が不要だと、職員が誤認した」などと説明。「(組織として)隠蔽(いんぺい)の意図はなく、担当職員らの認識不足だった。マニュアルは存在していたが、教育が徹底できていなかった」と釈明した。
 再発防止策として、ハード面では全社でシアン処理能力を高め、職員の意識改革の徹底を図るという。また、今後は水質測定データを同社のウェブサイトで公開し、君津、木更津、富津の地元三市の住民や漁業者らには直接説明する。一方、「現時点で健康被害に対する調査をする予定はない」(谷所長)とした。
 熊谷俊人知事は報告を受け「地元三市とともに内容を精査し、早期の信頼回復へ向けて指導する」とコメント。県担当者は刑事告発の予定について「現段階ではない」とした。
 一連の問題は今年六月、製鉄所近くの小糸川が赤く染まり魚が大量に死亡したことで、生産工程で使用する「脱硫液」の漏出が発覚。その後の調査で、シアンの流出が判明した。

関連キーワード


おすすめ情報

千葉の新着

記事一覧