感染症後の発症目立つ だるい 痛い 筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群 コロナ後、症状訴える人も

2021年5月25日 07時19分
 原因不明の倦怠(けんたい)感や痛みなどが続き、日常生活も困難になる「筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群(ME/CFS)」。新型コロナウイルスに感染した人らに、この病気が疑われる症状を訴える例がある。治療法はなく、国内には専門医も少ないのが現状。一方で、血液を使った確定診断につながる可能性のある研究成果が4月末に発表され、今後に期待が集まっている。 (小林由比)
 神奈川県内で暮らす四十代の女性が微熱とだるさを覚えたのは昨年三月初め。国内で新型コロナの感染が広がり始めた時期だ。当時はすぐにPCR検査を受けられる状態になく、かかりつけ医で風邪薬を処方されて服用した。一週間後の再受診でも肺のエックス線検査は異常なし。しかし、だるさは取れず、総合病院であらゆる検査を受けたが、異常は見つからなかった。
 ME/CFSの可能性を指摘したのは、十二月に受診したコロナの後遺症を多く診ている医院の医師だ。助言に従い、国立精神・神経医療研究センターの山村隆医師のもとを訪れ、今年二月、ようやく診断が確定した。山村さんは国内で感染が拡大して以降、女性のように検査を受けられなかった人、検査では感染が確認されなかった人を含め約三十人を、コロナ後のME/CFSと診断した。女性からはコロナの感染歴が分かる抗体も検出されなかったが、さまざまな状況から感染後に発症したとみられるという。
 ME/CFSは、日常生活が送れないほどの強い倦怠感のほか、睡眠障害や頭痛、思考力や集中力の低下などが半年以上続く疾患。治療薬はない。国内の患者数は約十万人と推計され、厚生労働省による二〇一四年度の実態調査では、三割が一日の半分以上を横になって過ごす重症患者だ=表。通常の血液検査や脳画像検査では異常が出ないため、診断されていない患者も多くいるとみられる。
 発熱などの風邪症状に続いて発症する例が多く、感染症の原因となるウイルスや細菌との関連は、以前から言われていた。同じ厚労省の実態調査では、急性の発症者百五人のうち、三十九人が感染症の後に症状が出ていた。山村さんは「外来での調査や海外の論文なども含めて検討すると、約半数は感染症後の発症」と説明。このため、各国の専門家がコロナで患者が増える可能性を指摘している。
 女性は症状を和らげる薬を服用しながら、ほとんどの時間を横になって過ごす。頭の回転が鈍くなったように感じ、物忘れが増えた。パートは辞めざるを得なかった。「こんなに長引くなんて」と声を振り絞る。
 こうした中、注目を浴びたのが、四月末に同センターの研究グループが発表した「ME/CFS患者に共通する免疫異常の発見」だ。さまざまな細菌やウイルスを認識するため、免疫を担うリンパ球の一種であるB細胞には多くの種類の「受容体」がある。これを健康な人と比べると、患者では六種類の受容体の数が増えていた。増えたのはインフルエンザウイルスやマラリア、新型コロナウイルスに感染すると増えやすい受容体だった。今は経験豊富な医師の判断に頼らざるを得ないが、血液中のB細胞受容体を調べれば確定診断ができるようになる可能性があるという。
 単なる疲労として捉えられるなど誤解や偏見に苦しむ患者は多い。「早期に診断できれば福祉サービスなどにもつながりやすい」と山村さん。「感染と免疫異常との関わりを手掛かりに、治療法にも結びつく研究が広く行われるようになってほしい」と話す。

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