熱い、熱い17日間が終わった。東京五輪では、野球日本代表が正式競技となってから初めてとなる金メダルを獲得。悲願達成に侍戦士たちも、全国の野球ファンも熱狂した。
日本の前に惜しくも敗れたのは、米国代表。その中で、奮闘したのがヤクルトのスコット・マクガフ投手(31)だった。全6試合中5試合に登板。オレゴン大2年時の2010年以来、11年ぶりに星条旗を背負い、「第2の故郷」という日本で腕を振った。
8月2日。決勝トーナメント(ノックアウトステージ)初戦。B組1位の米国は、A組1位の日本とぶつかった。6―5と1点リードの九回。マクガフは7番手でマウンドに上がった。だが、1死から鈴木(広島)に四球、浅村(楽天)に右前打とされ、柳田の二ゴロの間に同点。結果的に延長十回、タイブレークでサヨナラ負けを喫した。
悔しさ、もどかしさ、自責の念。さまざまな思いがあっただろう。ただ大会後、マクガフが記者に教えてくれた。「あの動画にすごく元気づけられたんだ」と。
悔しい夜を過ごした翌日の8月3日。マクガフのスマートフォンが鳴った。1本の動画が届いた。送り主は、ヤクルトで自身の担当をしてくれる小山通訳。中身は、仙台でエキシビションマッチ(対楽天)に臨むスワローズ投手陣からの激励の言葉だった。
「ヘイ、スコット! 頑張ってー」「ファイティン!」「スコット、ファイト! 頑張って!」
わずか30秒足らずの短い動画。だが、若手投手陣からのメッセージの一つ一つは、マクガフの心に深く突き刺さった。落ち込んでいる自身を励ましてくれる言葉。あふれる笑顔。返信はこうだった。
「みんなに会えなくて寂しい」
来日して3年目。いまや、ヤクルトには欠かせない存在だ。マウンド上での活躍は誰もが知るところだが、練習中にも若手選手の良き相談相手として試合への臨み方などを助言している。
二人三脚でシーズンを送っている小山通訳は言う。「みんな日本に勝ってもらいたいというのはありますけど、スコットにいいピッチングをしてもらいたいという思いもあったはずです。みんなに愛されていて、スコットをちゃかすような選手は一人もいない。だから、カメラを向ければみんなが笑顔でコメントしてくれたんだと思います」。
みんなが応援してくれている―。マクガフの胸には「ヤクルト魂」が宿ったはず。10日にチームに合流した際には、満面の笑みを浮かべていた。
「戻ってこられるのをすごく楽しみにしていたし、チームメートと再会できて、『おめでとう』と言ってもらった。戦った仲間(山田、村上)とも再会して、高津監督もとても歓迎してくれて『おめでとう』という言葉もいただいた。みんなとまた会えて、すごくいい1日でした」
日本を熱くさせた侍戦士たちの活躍。その陰で、マクガフは仲間の声援をもらいながら、愛する日本のマウンドに立っていた。大会後には、誇らしげにこう口にしていた。
「(国を背負って五輪で戦うことは)もちろんすごく大きく、野球人生の中でたぶん一番の経験だった。日本と戦って、世界に日本のレベルの高さを見せられたことも自分にとっては大きなことだったし、とてもいいことだった」
プロ野球の後半戦は、13日から始まる。ヤクルトの初戦は14日のDeNA戦(新潟)。たとえ距離は離れても心は一つ。再確認した仲間たちとの絆を大切に、スワローズのユニホームに袖を通す。(赤尾裕希)