開会式で聖火リレーの走者を務めた(左から)王貞治さん、長嶋茂雄さん、松井秀喜さん(撮影・松永渉平)

23日午後8時から国立競技場で行われた東京五輪の開会式は、過去の華やかな祭典とは一線を画すものとなった。新型コロナウイルスの犠牲者への哀悼パフォーマンスが盛り込まれ、出席者が黙とう。前日22日に演出統括役が解任されるなど直前までトラブルが続いたが、ゲーム音楽や漫画文化などで和の要素も世界にアピール。静かに厳かに、〝新しい様式〟の五輪が幕を開けた。

開会式のクライマックスとなる聖火リレーで、野球界から長嶋茂雄・巨人終身名誉監督(85)、王貞治・ソフトバンク球団会長(81)、松井秀喜・ヤンキースGM付特別アドバイザー(47)が走者を務めた。2004年アテネ五輪で野球日本代表の指揮を執ることを病気で断念した長嶋さんにとって、待ちに待った日。盟友、まな弟子とともにゆっくりと歩を進め、五輪の舞台に立つ夢を東京で実現させた。

国民栄誉賞を受賞した野球界のヒーローたちが、大役を担った。レスリング女子の吉田沙保里さん、柔道男子の野村忠宏さんの五輪3連覇ペアのトーチから、〝ミスタープロ野球〟こと長嶋さんが左手で持つトーチへと聖火が受け継がれた。

灯がともったトーチは現役時代に〝ON砲〟と呼ばれ、巨人を9年連続日本一に導いた盟友、王さんの手へ。長嶋さんには巨人監督時代のまな弟子で、日米通算507本塁打の松井さんが寄り添い、3人でゆっくりと歩を進めた。

国民的スターの長嶋さんに、大会組織委から最終的なオファーが届いたのは6月下旬ごろとみられる。2018年7月に胆石の治療のため入院。その後、しばらく療養が続いていた経緯もあり、体調面が考慮されてぎりぎりでの打診となった。

ミスターにとって、東京五輪は特別な場だ。現役時代の1964年東京五輪では、スポーツ紙の企画『ON五輪をゆく』で王さんとともに競技を見て回り、バレーボール女子「東洋の魔女」の金メダル獲得などに心を震わせた。翌65年には、同五輪でコンパニオンを務めた西村亜希子さん(故人)と結婚した。

2004年アテネ五輪では「長嶋ジャパン」を率いるはずだったが、同年3月に脳梗塞で倒れ、五輪での指揮を断念。あこがれの日の丸を背負った戦いは、幻となった。当時は自らユニホームのデザインに意見を出し、左胸と背中の日の丸を大きくするなど強いこだわりを見せていた。日本オリンピック委員会(JOC)のエグゼクティブアドバイザーとして野球以外の競技の強化にも携わるなど、東奔西走していた中で起きた〝悲劇〟。あれから17年の時を経て、ついに五輪の舞台に立った。

最後は王さんからトーチを受け取った松井さんが医療従事者のペアのトーチへ聖火を移し、大役を終了。13年の国民栄誉賞授賞式が思い起こされる〝二人三脚〟を、松井さんは「長嶋さんをエスコートすることに集中した。喜んでいただけたのなら、うれしい」と笑顔で振り返った。

日本の人気ナンバーワンスポーツである野球のヒーローたちの登場は、24年パリ五輪で再び実施競技を外れることが決まっている野球・ソフトボールの〝再復帰〟へのアピールとしても、大きな意味を持つことだろう。

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