作新学院(栃木)が54年ぶりに全国制覇を果たして終わった、今夏の甲子園。リオ五輪と同時期に行われたにもかかわらず、開門前に、兵庫・西宮市の甲子園球場の前に長蛇の列ができるなど、連日、大盛況だった。
高校野球と言えば、アルプスでの応援も魅力の一つ。約2週間の甲子園取材で、印象に残った応援をいくつか紹介する。
まずは、クラーク(北北海道)だ。創部3年目で、通信制の高校としては夏初出場を果たした同校のブラスバンドは、大学生が務めていた。「学校法人創志学園」が設置者のため、同じグループの環太平洋大のマーチングバンド部が、三塁側アルプス席に陣取った。
「金管楽器だけなので、ゴリゴリの重厚感ある演奏が特長。週5回の練習で鍛えています」
同部のサブ幹部として、全体の指揮を執っていた野口未稀さん(3年)は魅力を語った。12日の2回戦(対聖光学院)では胸に「クラーク国際」と入った青色の、オリジナルTシャツを着て演奏。翌13日は、創志学園(岡山)を応援するため、一塁側アルプスでメロディーを奏でた。
両校とも初戦敗退となったが、高校生とは違う力強さ、安定感、統一感は間違いなく今大会のブラスバンドの中では金メダルの演奏だった。
次は、こちらも初出場の八王子学園八王子(西東京)だ。「8番・捕手」としてチームを引っ張った細野悠(3年)の応援歌の歌詞は一風変わっている。歌手・大塚愛(33)の代表曲「さくらんぼ」に合わせて、「小平から来ました~私細野悠」と歌われる。東京・小平市出身の細野をアピールした歌詞に、同市出身の記者は好感を持った。
「かっとばせー」や「狙え!!ホームラン」などの歌詞が多い中、本人の出身地を紹介するというユニークな発想。初出場ならではの応援に、聞き入ってしまった。
最後は、古豪・樟南(鹿児島)だ。アルプスから聴こえてくるのは、メガホンをたたく音ではない。チャン! チャン! チャン! としゃもじをたたく音だった。
なぜしゃもじ!? OBに話を聞くと、「広島にいたOBの方が、大きいしゃもじを贈ってくれたのが始まり。相手を『召し(飯)取る』という意味が込められています」と説明してくれた。
アルプス席の隅で、元祖である大きなしゃもじを発見。うっすら「昭和五十七年」と書かれた文字に、夏19度も聖地の切符をつかんでる伝統校の歴史を見た。
高校野球の魅力は。球児のプレーだけにあらず。応援席とグラウンドの選手たち、そして観客が一体となってこそ、高校野球の美しい姿なのだろう。(赤尾裕希)