銘柄800超 激化する「ブランド米」競争を勝ち抜くためには…

銘柄800超 激化する「ブランド米」競争を勝ち抜くためには…
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国内では食用米の需要が減少し、政府による生産調整(減反)が廃止されたことでコメ市場の厳しさが増す。各地が品質や生産性を高めたブランド米で競争力をつけようとする中、国内の米の銘柄は800超にも上る。「近畿の米蔵」と呼ばれる滋賀県も、ブランド米「みずかがみ」の営業を強化、ブランドの浸透を図る。国内で激化するブランド米競争の一端が見えてきた。(大島直之)

滋賀県は「みずかがみ」で勝負

「みずかがみは品質が安定し、おいしいと好評です」

滋賀県北部鈴鹿山系のふもとにある多賀町。同町で約20年前から減農薬・減肥料の生産に取り組み、今はみずかがみの栽培も行っている農業法人「多賀穂(たがすい)」代表の土田勇さんは胸を張る。同町では今年度、25ヘクタールでみずかがみを栽培した。

みずかがみは農薬の使用量を減らすなど環境に配慮した栽培にこだわる品種で平成25年から販売を開始した。味はほどよい粘りとまろやかな甘みがあり、冷めてもおいしいと好評で、27~29年作分まで3年連続で日本穀物検定協会の食味ランキングで最上級の「特A」を獲得した。

県は認知度向上に向け、大手コンビニエンスストアとのコラボレーションでおにぎりを販売。航空機の機内食や有名ホテルでも使用されるなど少しずつ知られるようになり、栽培面積は県内のコメ全体の約10%の約3200ヘクタール(速報値)に上る。食のブランド推進課は「生産者、消費者の両方から受け入れられつつある」と手応えを話す。

みずかがみ誕生のきっかけは、平成10(1998)年ごろから温暖化の影響によりコメの品質が落ちたこと。県内の農家から「暑さに強い品種ができないか」との声が滋賀県農業技術振興センターに届けられるようになった。

そこでセンターは平成15年に病気に強く栽培しやすい「母稲」と品質と食味に優れた「父稲」の人工交配に着手。通常、1年に1回しか収穫できない稲を、温室で生育サイクルを早めて1年で3回栽培できるように工夫するなどして開発スピードを上げ、5年かけて候補5万種の中から選び抜いた1種がみずかがみだ。同センター栽培研究部の谷口真一部長は「暑さや病気への強さ、収穫量、品質、味などの調査を何度も繰り返した」と振り返る。

味、品質の維持

近年、国内の主食用米の需要が一貫して減り続ける中、生産地では品質や生産性を高めて競争力を高めていくために、味や産地にこだわったブランド米を育てる動きが広まっている。農林水産省によると、令和元年産では37銘柄が新たに申請され、全国では800を超える銘柄がある。

滋賀県もみずかがみを売り出すにあたり、琵琶湖の豊かな水、自然を想起させるネーミングなどブランドイメージにこだわった。さらに主力市場を京阪神エリアに定め、「冷めてもおいしい」を特徴にアピールする。

ただ、滋賀県農業技術振興センターの谷口部長は「みずかがみは今のところ順調にみえるが、安心ばかりはしていられない。市販されている米の味の差はわかりづらいもの」と指摘する。各地で激化するブランド米の競争を勝ち抜くためにも「品質の維持を含めて克服する課題はある」と気を引き締める。

滋賀県は今秋から農薬・肥料を一切使わない「オーガニック米」の試験販売を開始した。新しく金色の専用米袋を作製し、滋賀の統一ブランド「オーガニック近江米」として「オーガニック みずかがみ」「オーガニック コシヒカリ」を売り出している。

自ら店頭に立つトップセールスもいとわない三日月大造知事は「『オーガニックといえば滋賀県』になるよう、関係団体と一体となって取り組んでいきたい」と意気込み、近畿の米蔵の意地を見せている。

きっかけは琵琶湖

滋賀県は平成13年度から農薬や化学肥料の使用量を通常の半分以下にしたり、泥水を流さないようにしたりするなど、琵琶湖や周辺の環境に優しい技術で栽培されたコメや茶、野菜などを「環境こだわり農産物」として認証している。「みずかがみ」もその一つだ。

認証制度を創設するきっかけとなったのが、琵琶湖の環境汚染。農薬や化学肥料に含まれる窒素やリンが琵琶湖に流入し、植物プランクトンの過剰な増殖で赤潮やアオコが大量発生。悪臭を放つなどの水質悪化が大きな問題となっていた。

このため、県はお湯での種もみ消毒や草刈り機の使用などを通じ、農薬や化学肥料の使用量を通常の半分以下にするよう農家に要請した。農家にとって、減農薬・減肥料はコスト負担や収量が減るリスクを伴い、県も補助金支出でコストがかかる。それでも、「琵琶湖を守ろうという意識が自然と広がり、認証制度への理解も進んだ」(県食のブランド推進課)という。

その後、同様の制度は国でも制度化され、他の都道府県に拡大。13年度に394ヘクタールだった滋賀県内の認証農産物の栽培面積は30年度には約39倍の1万5335ヘクタールに増え、環境農業先進県としての基盤を固めている。

県食のブランド推進課の担当者は「ここ20年で環境に配慮した農法は県内農家に着実に浸透している。県としても安全・安心な滋賀産農産物を積極的にアピールしたい」と話している。

【プロフィル】大島直之(おおしま・なおゆき) 平成27年入社。東京経済本部、大阪経済部を経て、令和元年6月から大津支局で勤務。これまでの記者生活のほとんどを経済取材に取り組んできた。4年前に初めて西日本での生活を経験し、管内の支局勤務も初めて。1度しか見たことがなかった琵琶湖を眺めながら暮らすことに不思議な感覚を覚える。

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