テレビ復旧に23日間 能登半島地震で想定外の長期化 携帯も使えず情報インフラ危機に

元日に発生した能登半島地震では、地上波テレビ放送が最長で23日間にわたって停波し、被災地の広範囲で携帯電話の通信障害が発生するなど、被災者の安全に直結する情報のライフラインが脅かされた。停電で最大120局の地上波テレビ・ラジオ中継局が停波した東日本大震災以降、非常用電源の設置などの対策は進められていたが、半島部特有の交通事情など新たな課題も浮き彫りとなっている。

燃料補給できず

地震で停電した石川県輪島市一帯では、中継局は非常用電源による発電で放送を継続したが、バッテリーの燃料が枯渇し、1月2日昼ごろから停波となる地域が出始めた。

NHKと民放各局は総務省を通じ、自衛隊に中継局への燃料輸送を依頼した。しかし、陸路が限られる半島部では道路の寸断などで燃料補給が十分にできず、3つの中継局で地上波テレビ放送が停波。余震も続く中、一時約2130世帯(うち約1430世帯は民放のみ)がテレビの情報を得られない状況となった。

特に影響が長引いたのが、住民の孤立が起きた市東部の旧町野町地区にある輪島町野中継局だ。土砂崩れが多発した山頂部にあり、地上から向かうことも自衛隊ヘリでの燃料輸送も困難に。24日正午過ぎに商用電源が復旧、停波を解消できたが、約700世帯が23日間にわたって地上波テレビを視聴できなかった。

BS使い迂回放送

輪島市などの奥能登地域では地形的な理由からケーブルテレビで地上波テレビを視聴する世帯も多く、ケーブルの寸断で避難所でもテレビが映らなくなった。

そこでNHKは、BS103チャンネル(昨年11月で番組放送が終了)を活用し、9日午後6時から総合のニュースと石川県域番組を放送。輪島市や珠洲市、能登町、穴水町の避難所59カ所に衛星用アンテナを設置した。12日からは「ニュース以外も見たい」という要望に応え、ドラマやスポーツなど、ほぼすべての総合番組を放送している。

石川県七尾市の避難所で過ごす人たち=1月7日午後2時58分
石川県七尾市の避難所で過ごす人たち=1月7日午後2時58分

NHKの井上樹彦副会長は17日の定例会見で「地震による交通・通信網の遮断でなかなか中継局の被害状況の把握ができず、燃料が運べなかった」と停波が長期化した理由を説明。BSによる迂回放送については「かなり早い判断と実行だった」と自賛した。

地元番組再評価も

ただ、テレビの停波に加えて、携帯電話の通信障害が同時に発生し、自宅から避難した被災者の情報のライフラインに大きな影を落とした。

大手携帯4社の通信サービスは、石川県内では珠洲市▽輪島市▽能登町▽穴水町▽七尾市▽志賀町▽宝達清水町▽金沢市-の8市町で障害が発生。各社は車載型・可搬型の基地局や衛星通信サービス「スターリンク」を活用、17日までに一部の立ち入り困難地域を除き応急復旧を完了させた。

メディアコンサルタントの境治氏は「非常用電源の設置など中継局の強靭化は進んでいたが、交通網の寸断でこれだけ長期間停電が続いたのは想定外。通信障害も同時に起き、改めて半島地域での大規模災害対応の難しさが浮き彫りになった」と指摘する。

一方で、テレビ金沢など地元局がネットで提供するニュース動画は再生が10万回を超え、地震前よりはるかに多く視聴されており、「その土地に根差した放送が、電気や通信といったインフラと同じように大切だと認識されるようになった」と境氏。さらに、給水所やトイレ情報を集約するヤフーの「災害マップ」を例に挙げ、「メディアも災害時にどうやって力を結集させるのか、事前に議論を深めておく必要がある」と話した。

ラジオは「普段通り」で存在感

被災者に配布された電池式ラジオ(民放連提供)
被災者に配布された電池式ラジオ(民放連提供)

能登半島地震で、ラジオはどのような役目を果たしたのか。聴取状況の詳しい調査はこれからだが、全国ネットのラジオ局では、あえて「普段通り」の雰囲気でリスナーに安心をもたらした番組があった。

文化放送では、元日午後10時から生放送した「レコメン!」で、随時ニュースや防災情報を伝えつつ、パーソナリティーの駒木根葵汰さんが「あなたの身の回りの状況を教えてください」と呼びかけた。石川県のリスナーからは「テレビがどこも緊急放送になっている中で、パーソナリティーの優しい声で安心した」との反響があったという。

3日午前1時のニッポン放送「星野源のオールナイトニッポン」では、星野さんの希望で収録済みの番組内容を変更し、星野さんが生出演。テーマを設けず「自由にメールをお送りください」と呼びかけ、被災地からもメールが届いた。

民放連は北陸放送とエフエム石川を通じ、電池式ラジオ計200台を被災者や避難所に配布した。平成28年の熊本地震を契機に、大規模災害時に配布するラジオを備蓄していたという。遠藤龍之介会長は「停電の中で『ラジオの情報が命綱だった』という声もある。地元局が関係者の協力を得ながら情報のライフラインを維持できた」と手応えを語った。(村嶋和樹)

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