能登半島地震 自衛隊「逐次投入」批判の浅薄さ

新聞に喝! 日本大教授・小谷賢

雪の降るなか、輪島朝市周辺の捜索を行う自衛隊員ら=13日午後、石川県輪島市(桐原正道撮影)
雪の降るなか、輪島朝市周辺の捜索を行う自衛隊員ら=13日午後、石川県輪島市(桐原正道撮影)

能登半島地震への政府の初動対応について、立憲民主党の泉健太代表は5日、「自衛隊員が逐次投入になっているのは遅い」と発言した。各紙はこの「逐次投入」発言を取り上げ、政府や自衛隊の対応を間接的に批判している。

例えば、8日の朝日新聞は「現場の部隊は2日の約1千人を皮切りに、3日に約2千人、4日に約4600人、5日には約5千人、6日には約5400人、7日には約5900人に増員した。ただ、11年の東日本大震災では発災の翌日に約5万人から約10万人に、熊本地震では2日後には当初の約2千人から約2万5千人へと、首相や官房長官らのトップダウンで増員を決めている」と、今回の政府による初動対応があまりうまくいっていないような報じ方だ。

他方、7日の毎日新聞電子版は「自衛隊派遣、増員が容易でない背景 能登半島地震と熊本地震の差」と題して、能登半島の地理的問題や、近隣に自衛隊の大規模駐屯地がない、という理由で、自衛隊の大規模部隊の即時派遣が困難であることを報じている。今回は毎日の記事の方がより説得的だろう。

地理的な問題は、三方を海に囲まれた能登半島へのアクセスは南からのルートしかなく、しかも地震で各地の道路が寸断されている状況だ。海路も津波と海底隆起の影響で接岸が難しい状況であり、そうなるとヘリ空輸か徒歩しかなく、輸送量は極めて限られる。そして熊本地震の際には、熊本市に駐屯する第8師団(約6100人)の存在があったが、今回、近隣の金沢市には第14普通科連隊(約1200人)しか存在しておらず、マンパワーも足りない。そうなると通過可能な道路を使って、少しずつ自衛隊員と物資を送るのが合理的となるが、これが「逐次投入」と批判されたのである。

「逐次投入」というと太平洋戦争中のガダルカナル島の戦いが連想され、あたかも失策のような印象を与えるが、当時の日本陸軍でも逐次投入のまずさは認識されており、むしろ問題は、米軍の規模に関する情報の不足や、同島までの遠さに起因するロジスティクスの要素が大きい。状況が不明瞭なまま次々と部隊を送ったために、後から見るとそれが逐次投入になってしまったのである。情報があり、距離の問題がなければ、日本陸軍も別のやり方を選んだかもしれない。

今回の能登半島地震における自衛隊派遣は、悪い状況下で何とか最善手を打っている印象だ。政府の初動対応が遅れ、自衛隊の派遣が逐次投入になったという批判は、浅薄に思える。

【プロフィル】小谷賢

こたに・けん 昭和48年、京都市生まれ。京都大大学院博士課程修了(学術博士)。専門は英国政治外交史、インテリジェンス研究。著書に『日本インテリジェンス史』など。

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