「ファスト映画」投稿者に5億円賠償求め提訴 東宝など13社

映画の内容を短縮した「ファスト映画」を動画投稿サイト「ユーチューブ」上に無断で投稿され著作権を侵害されたとして、東宝などの映像会社13社が19日、投稿した男女3人=いずれも著作権法違反罪で有罪判決が確定=を相手取り、計5億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

訴状によると、3人は令和2年初頭から10月下旬の間、「シン・ゴジラ」など、13社がそれぞれ著作権を持つ映画54作品についてファスト映画を無断で作成しユーチューブ上に投稿。動画の再生回数は合計で1千万回超に上り、広告収益で少なくとも約700万円を得ていた。再生1回当たりの被害額を200円と算定し、被害総額は約20億円相当と主張している。

3人は昨年、同法違反容疑で宮城県警に逮捕され、いずれも執行猶予付きの有罪判決が確定した。

原告の一部が加盟するコンテンツ海外流通促進機構(CODA)は提訴後に会見を開き、後藤健郎代表理事が「ファスト映画の『やり得』を許さず、同種の犯罪を抑止したい」と訴訟の意義を強調。若者を中心にファスト映画の視聴が広まっている現状について「犯罪を助長している面は否めない。消費者にも著作権保護の大切さを理解してほしい」と述べた。

東宝は「大切な映画の著作権を守り、ひいては映画産業の未来を守るために、侵害行為に対しては今後も断固とした対応を行う」とコメントしている。

コンテンツ過多で「効率」求める消費者心理も…

ファスト映画は、権利者に無断で映画の映像などを切り取り、字幕やナレーションを付けて10分程度に編集。その動画を投稿サイトなどにアップし、ストーリーを明かすものだ。

投稿者が動画の再生回数に応じて支払われる広告収入を目的にしているとみられているが、スマートフォンやSNSの普及などでインターネットコンテンツがあふれる中、短時間でより多くの「情報」を効率よく得ようとする若者らの心理も、拡大に拍車をかけているとされている。

新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要も手伝い、投稿が急増。CODAは、有料で鑑賞されなかったことによる被害額は昨年6月時点で950億円に上ると試算する。こうした状況を受け宮城県警は昨年6月、著作権法違反容疑で今回の被告側の男女3人を全国で初めて摘発した。

この摘発で、ファスト映画の削除は進んだが、書籍や漫画など映画以外のコンテンツにも「ファスト化」の動きが広がる。SNSを中心に書籍の内容を要約し「図解」として数枚の画像にまとめた投稿も散見されるほか、長編漫画を要約した動画の投稿もあふれ、歯止めはかかっていない。(塔野岡剛)

会員限定記事会員サービス詳細