高中正義「虹伝説ファイナル at 日本武道館」 ギター・ヒーローは永遠 

40年前の公演を再現した高中正義=東京都千代田区(C)GEKKO
40年前の公演を再現した高中正義=東京都千代田区(C)GEKKO

「ギター・ヒーロー」という言葉は、なぜかベンチャーズ世代にはあまり使われない。「神様」とも呼ばれたエリック・クラプトン以降に登場した限られた天才をたたえる言葉だ。

だが、もう死語だ。米老舗ギター・メーカー、ギブソン社は破産宣告し、神様クラプトンをして「ギターは終わった」と言わしめた。BTSにギタリストなどいない。ギタリストは踊れない。

だが、一人のギター・ヒーローが、東京の日本武道館(千代田区)に凱旋(がいせん)した。高中正義(68)だ。昭和46年に高校生でプロデビューして、今年で50周年。これを記念し、「虹伝説ファイナル at 日本武道館」と銘打ち、26曲、3時間近い演奏を聴かせたのだ。

「虹伝説 THE RAINBOW GOBLINS」は、40年前の56年の高中のアルバム。絵本に触発されて作った。発売に合わせ当時、高中は武道館で「虹伝説コンサート」を開いた。1部で「虹伝説」の収録曲を曲順通りに全曲演奏し、2部はヒットパレードという構成。50周年を記念し、40年前のその企画を再現したのが、このコンサートだ。圧巻だった。

今さら高中か、虹伝説かという思いもないではなかったし、レーザー光線が飛び交う開幕の演出も古臭くも見えた。

だが、黄色い上下の肩から黒いコートを羽織り、丸いサングラスといういでたちで現れた高中には、まるで年をとったようすもない。塗装の剥げたストラトキャスターを引っ提げ、ロックギターの奏法とラテンなどの華やかなリズムを融合させたリゾートサウンドという独特の音楽世界を、圧倒的な音圧で繰り広げた。

バンドはベース、ドラム、鍵盤楽器2人、打楽器、3人の女声コーラスという編成。ベースは岡沢章(70)、打楽器は斉藤ノヴ(71)。ともに、その楽器の名手。ドラムの宮崎まさひろ(66)は、10年間、楽器を捨て農業に従事した異色の経歴の持ち主だが、40年前のコンサートでもたたいていた。岡沢と2人で重心の低い、実に素晴らしいリズムを刻んだ。

「歌手は?」と、今の若い人たちは思うかもしれない。いないのだ。メインは高中のギター。ギターが歌いまくる。だから、高中はギター・ヒーローなのだ。

チョーキングのたびに身もだえした。弦を押し上げて音程を変える奏法のことで、素人にもできるが、官能的なチョーキングとなると、これができるのはプロでも限られる。

最終盤の「トロピック・バード」と「レディ・トゥ・フライ」の2曲が、この夜のハイライトか。無伴奏で繰り広げた三味線ふうの独奏など、高中のギターを味わいつくせた。観客は、マスクの奥のうなり声で快哉を叫んだ。

「クラプトンなんて、サンキューしか言わない」と言いながら、高中は語りも絶好調だった。「サラリーマンになるかギタリストになるか悩んだ。死ぬこともあるまい。なんとか食っていけるだろうと好きなことをやる道を選んだ」と50年前を振り返った。

流行の音楽を聴けばクラプトンが言うように、ギターの時代は終わったことに疑いもない。だが、ギター・ヒーローはまだ死なずだ。高中がフェンダーとヤマハのエレキギターから放った音色は、時を超えて輝きを放った。(石井健)

20日、日本武道館で。2時50分。

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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