書評

『廃遊園地の殺人』 あらゆる謎 解かれる快感

「人を二人以上殺した者を即座に地獄へ落とす天使」が存在する世界を描いた謎解きミステリー『楽園とは探偵の不在なり』で注目を浴びた斜線堂(しゃせんどう)有紀が、今度は廃墟(はいきょ)を舞台にした真相当て小説に挑んだ。それが『廃遊園地の殺人』である。

プレオープンを迎えたテーマパーク・イリュジオンランドで、籤付晴乃(くじつき・はるの)という男が猟銃を乱射する事件が発生した。4人の死者と8人の重軽傷者が出た後、籤付晴乃はパーク内のゴンドラで自殺する。この事件によって閉園に追い込まれたイリュジオンランドは、廃墟マニアとして知られる資産家の十嶋庵(としま・いおり)によって買い取られた。以来、十嶋の徹底した管理のもと、パークは誰も立ち入ることのない廃墟と化していたのだ。

事件から20年後、十嶋庵は突然インターネット上でイリュジオンランドを開放することを発表する。パークの元従業員、廃墟好きのコンビニ店員、〈廃墟探偵〉シリーズを書くミステリー作家などが集められる中、彼らに「このイリュジオンランドは、宝を見つけたものに譲る」という十嶋庵からの言葉が伝えられる。パーク内での宝探しを始める面々だが、翌朝に恐ろしい事態が起きる。参加者の一人が、異様な状況で死体となって発見されるのだ。

いわくつきの廃墟に一癖ある人物たちが集い、不穏な空気に満ちたところで事件が発生する。謎解きミステリーの本道を行くような展開をなぞり、読者の期待を十分に高めるところが実にうまい。物語では現在進行形の事件だけでなく、20年前の猟銃乱射事件もクローズアップされる。過去の犯罪を扱うことで、遊園地という限られた空間を描きながらも、物語に時間的な奥行きを与えている点も本書の美点だ。

作中で描かれた、あらゆるタイプの謎が解き明かされていく解決編は圧巻だ。なかでも「なぜ犯人がそのような行動を取ったのか」という理由探しと「犯人はどのようにその犯行を行ったのか」という方法の解明において、複雑に絡まった糸がシンプルにほどけるような快感を得ることができる。遊園地内のアトラクションを全て遊び尽くしたときと同じ充実感を持って本書を読み終えるだろう。(斜線堂有紀著/実業之日本社・1980円)

評・若林踏(書評家)

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