山口3区、外堀埋められた河村元官房長官

後援会幹部らを集めた会合の会場に入る河村建夫氏(中央)=13日、山口市
後援会幹部らを集めた会合の会場に入る河村建夫氏(中央)=13日、山口市

衆院が解散された14日、自民党の河村建夫元官房長官(山口3区)が衆院選(19日公示、31日投開票)に出馬せず、引退する意向が明らかになった。山口3区の党公認候補は、参院議員を辞職し、くら替え出馬する林芳正元文部科学相となる方向で、自民は公示を目前に分裂を回避した。不利な情勢、後ろ盾だった二階俊博前幹事長の交代-。当選10回で閣僚や党要職を歴任した河村氏は外堀を埋められ、不出馬に追い込まれた。

13日、東京・永田町の党本部で甘利明幹事長、遠藤利明選対委員長と面会した河村氏。党執行部から「保守分裂は避けてほしい」と告げられたのは、河村氏の出馬見送りと、河村氏の長男で秘書の建一氏を比例代表候補として処遇する案だった。

河村氏は同日午後、山口市内のホテルで後援会幹部らを集めた会合を開き、党の提案を報告。会合では判断を河村氏に一任することを決めた。出席した後援会関係者は険しい表情で「対応は河村先生に任せる」とだけ述べ、足早に会場を後にした。

会合後、すぐに東京へ戻った河村氏は同日夜、遠藤氏と面会し、党の提案を受け入れる考えを伝えた。

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山口3区では、現職の河村氏に対し、林氏が7月、正式にくら替え出馬を表明した。河村氏は「党のルールに反する」と強く反発し、閣僚経験のある大物同士が激しい公認争いを繰り広げてきた。

柳居俊学・県議会議長を中心に地元県議は林氏を支持した。7月、柳居氏の名前で、県議で構成する県連幹部が林氏を全面的に支援することなどを記した文書が、地域支部長らに送られると、河村氏側はすぐに「公認は現職優先」などとする反論文書を送付した。

結局、県議を中心とする山口県連は今月初め、河村氏を押し切り、林氏の公認を党本部に申請した。自民だけでなく地元の公明党も「自分たちの選挙だと思って全力で応援する」(公明県本部・先城憲尚代表)と林氏側に回った。

さらに河村氏にとって痛手となったのは、所属する二階派会長、二階氏の幹事長交代だ。二階氏は昨年10月、二階派議員約20人を引き連れ、同県宇部市で開かれた河村氏の総決起大会に出向くなど派を挙げて支援する構えを見せていた。二階氏が、選挙の公認に大きな権限を持つ幹事長職を外れたことで、河村氏は強力な後ろ盾を失った。

一方、岸田派幹部の林氏にとっては、派閥トップの岸田文雄政権が誕生し、ともに岸田氏に近い甘利氏が二階氏後任の幹事長に、遠藤氏が選対委員長に就いたことも公認争いで追い風となった。

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党本部の情勢調査でも河村氏に対し林氏が圧倒的に優位とされ、自民関係者は「河村氏は出馬しても厳しい戦いになることは明らかで、最後は党本部の提案を受け入れるしか選択肢がなかった」と漏らす。

河村氏の不出馬によって山口3区は、林氏と立憲民主党の新人、坂本史子氏との一騎打ちの構図となる見通しだ。林氏は東京都内で記者団に「今までと同じように地道な積み重ね、努力を続けていければと思っている」と語った。

「党本部の公認に漏れた方が(立候補を)辞退するのが小選挙区制のあり方だ。私も公認されなければ辞退する」

河村氏は7月、宇部市で開いた集会後、こう発言していた。自らが公認を得られるという自信の裏返しだったが、皮肉にも現実となった。(小澤慶太)

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