拉致解決に思い寄せた編集者、増田敦子さん死去 「志継いでいく」と同僚編集者

増田敦子氏
増田敦子氏

 北朝鮮による拉致事件に、草思社の編集者としていち早く関心を寄せ、本を多数編み、出版界で知る人ぞ知る存在でもあった増田敦子さんが1月14日、64年の生涯を閉じた。

 18日、横浜で行われた家族葬には、拉致被害者、横田めぐみさん(55)=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(83)や特定失踪者問題調査会代表、荒木和博氏の姿があった。

 平成11年に「めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる」(横田早紀江著)を出版して以来、家族のように拉致事件解決への思いを共有し、増田さんは出版という形で問いつづけた。息を引き取ったのは早紀江さんが見舞った翌日だった。

 草思社で40年、北朝鮮や拉致問題のほか、韓国、中国、日中、日韓、日米関係などを担当。日韓交渉における「竹島密約」(ロー・ダニエル著)と「中国共産党 支配者たちの秘密の世界」(リチャード・マグレガー著)はアジア・太平洋賞大賞に。「北朝鮮を知りすぎた医者」(ノルベルト・フォラツェン著)や「毛沢東の大飢饉 史上最も悲惨で破壊的な人災1958-1962」(フランク・ディケーター著)など多くの話題作も手掛けた。

 仕事の虫。いつも企画を考えていて、早紀江さんと当時の台北駐日経済文化代表処代表(駐日大使に相当)夫人、盧千恵さんとの本紙対談「独裁・愛・国家」(平成20年3月6日付)も増田さんとの会話からヒントを頂き、筆者が司会した。

 夫の許世楷代表と台湾民主化運動に参加、旅券没収で30年以上故郷の土を踏めなかった盧さんと、独裁国家に娘を奪われた早紀江さんとは初対面だったが、独裁を指弾し、自由の尊さや母の心情を熱く語り合い、共感を深めていた。

 病が増田さんを襲ったのは4年前。闘病しながら仕事をつづけ、昨年3月出版された「韓国『反日主義』の起源」(松本厚治著)が最後の担当となった。

 日本統治の歴史を豊富な一次資料を基に再構成した650ページを超す大著の編集は病身にはつらかったはずだが、「日韓関係史の決定的な一冊に」と、自らを奮い立たせていた。

 拉致事件未解決に政治への失望を語ることもあった。企画も残る。草思社の藤田博編集部長は「志を継いでいきたい」と述べている。(客員論説委員 千野境子)

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