「会社帰りのささやかな幸せでした」「ここの空間に何度も救われたことを僕は一生忘れません」「再会の日が必ず、早く、来ますように」-。1月に破産し閉店した書店「天牛堺書店」の天下茶屋店(大阪市西成区)のシャッターには、さまざまな思いを込めたメッセージが並ぶ。日に日に増えるそのメッセージからは、地域に愛された町の書店の姿が浮かび上がる。
大阪府南部を中心に12店舗を経営していた天牛堺書店(堺市南区)。新刊本と古本を併売するなど特徴ある売り方で知られた同書店が突然閉店したのは、先月28日のことだった。
天下茶屋店の閉じたシャッターには、閉店を知らせる破産管財人の紙が掲示されたが、その日のうちに、中学生と自己紹介しつつ、「僕を本好きにしていただきありがとうございました」と子供らしい字で書かれた紙が貼られたという。
それ以降、高校生のときにこの店を通して本が一層好きになり、今は教員をしながら学校の図書室を担当していることを記した便箋や、びっしりと思いが書かれた天牛堺書店のオリジナルブックカバーなど、店への感謝をつづった紙が次々と貼られていく。
幼い文字で「おじいちゃんとたくさんの本をかいました」と記されたものもあれば、「75才のおばあさんです。長い間ありがとう。淋しい限りです」といった内容もあり、幅広い世代に親しまれてきたことが伝わってくる。
シャッターには、「自由にお使い下さい」というメモとともにペンと付箋(ふせん)紙を入れたポリ袋が貼り付けられており、付箋紙がなくなっても誰かが補充している状況だという。
常連客だったというパートの女性(70)は「この店で好きな本を探して買って、前の喫茶店で読むのが生活の楽しみだった。ショックでショックで…」と声を詰まらせ、別の女性(69)も「言葉を読んでいると共感するところがたくさんある」と涙ぐんだ。