産経抄

貴乃花親方の負った傷…「力士の勲章」か、致命傷か 2月4日

 相撲に「顔の傷は力士の勲章」という格言がある。顔をかばい、相手より先に手をつけば負けになる。傷を負っても顔から落ちよ、と。平幕時代の貴乃花親方(元横綱)は格言を地で行く相撲で勝ったことがある。

 ▼顔をすりむいた当時10代の若者に父で師匠の藤島親方は「力士の仲間入りだ」と喜んだという(『貴花田』ワニブックス)。土俵の美学はしかし、処世万般に通じるものでもない。不利といわれた選挙である。「かばい手」ならぬ不戦敗で傷を負わない手もあった。

 ▼日本相撲協会の理事改選で敗れた貴乃花親方に、嘆息する好角家は多かろう。周囲の制止を振り切っての出馬だといい、同じ一門の親方から「ついて行けない」と見かぎる声も出たと聞く。かつて「将来の理事長」と目された人も、この黒星で負った傷は浅くない。

 ▼誰よりも強い発信力を持ちながら、元横綱日馬富士の暴力事件はもとより、この選挙でも沈黙を貫いたのはどうしたことか。部屋のウェブサイトに載せた声明文は改革への熱意をつづるのみで、角界をどう変えるのか何一つ語っていない。負けるべくして、だろう。

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