話の肖像画

元通産事務次官・小長啓一(1) 列島改造論の思いは今に生きる

 田中さんは、自民党総裁選に出馬する直前の47年6月に「日本列島改造論」を出版しました。当時は都市の過密と地方の過疎が顕在化していた。道路や鉄道網、空港や港湾をもっと地方につくり、東京への「人、モノ、カネ、情報」の流れを地方に大転換すると打ち出した。安倍晋三政権の「地方創生」も方向性は同じではないでしょうか。列島改造論は狂乱物価と呼ばれた地価高騰や第1次石油危機に見舞われて実現しませんでしたが、その思いは今に生きていると思います。目指した「一日交通圏、一日生活圏」も、後の政権でほぼ達成されました。

 ただ、根底にあった「1億総中流」の思想は、グローバル化の現代では実現しにくい。一部の人が富み、中産階級が下流化する米国的な現象が生じています。安倍首相も次々と対策を具体化しておられますが、田中さんだったらどんなダイナミックな政策に踏み切るだろうか、と考えることはありますね。

 〈小長氏も関わった「日本列島改造論」はベストセラーとなり、全国的なブームを起こした〉

 私を含めた執筆チームの作業は1日6時間、4日間にわたる田中さんのレクチャーを聴くことから始まりました。田中さんは開口一番、強調された。「明治の先達は偉かった。日本はまだ貧乏だったのに全国に小学校をつくり、鉄道を敷いた。経済大国になったわれわれも次世代のために思い切ってインフラを整備し、不均衡な発展を改めないといかん」

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