「ザク」がどういう経緯でデザインされたか、僕は知らないんです。ただ、一つ目というアイデアは面白いと思った。こういうと例は悪いかもしれないけれども、「ぬえ」にはないものが出てきたというか。
大河原さんといえば「タイムボカンシリーズ」などのイメージが強かったので、どういう風になるのか見るまで分からなかったのですが、出てきたデザインは、割と曲線主体だったんですね。それが斬新だったと思います。
基本的にはシンプルで、アニメーターとしてはありがたいなと思いました。ただ、実際に描いてみると、意外と手ごわい。今見ると、もっとうまいごまかし方があったのに…と思いますね。もっと関節などに遊びを持たせることで、うまく描けるのに、と。当時は発想が乏しかったから、かなり無茶なデフォルメをしているし、今見返すと、赤面ものですね。
「大河原さんありきではなかった」
(自身が手掛けた)「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」の場合、最初にどのデザインをベースにするかということで、かなり悩んだんです。大河原デザインではもう古いのではないか、という迷いが相当あった。若い世代やとがったデザイナーが続編などに参入しているときに、再び大河原デザインでいいのかと。決して初めから、大河原さんありきではなかったんです。
それで、サンライズに頼んで、誰が描いたかを隠してもらい、いろんな人が手掛けたデザインワークを取り寄せたんです。どれがしっくり来るか、絵だけで選んでいった。白紙から考えて、「この辺だろうね」と選んだもののデザイナーを聞いたら、すべて大河原さんだった。それで大河原さんと会って、改めて「THE ORIGIN」への協力と、新規デザインをお願いさせていただきました。
大河原デザインは「のどか」
大河原さんに直接、聞いたことはないけれども、大河原さんの本分は、タツノコプロで手掛けたような作品の中にあると僕は思います。あえて大河原さんの仕事を一言で表現すると、「のどか」なんですよ。
ほかのメカニックデザインには、文字通りとがったものも多いし、マニアックで、見ていてどこか疲れるものも多い。むしろ、その疲れた感じがいい、みたいな世界です。でも、大河原さんはその正反対にあるのではないか。
大河原さんのデザインには、どこかほっとする、癒やされるものがあるんです。タツノコ系のデザインは、まさにそうですよね。
若いデザイナーがどんどん参入している中で、大河原さんのデザインはしぶとく生き続けている。「気がついたら大河原」ともいうような、そんなところに彼の偉大さがあるのではないでしょうか。
(聞き手 三品貴志)
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「メカニックデザイナー 大河原邦男展」が9月27日まで、東京・上野の森美術館で開催中。