総支局記者コラム

学生流出率86%の和歌山県 ミナミほど活気あった頃をしのばせる「純喫茶ヒスイ」

「純喫茶ヒスイ」を切り盛りする高木淳彰さんと和子さん。ステンドグラスやシャンデリアが店内を彩る=和歌山市
「純喫茶ヒスイ」を切り盛りする高木淳彰さんと和子さん。ステンドグラスやシャンデリアが店内を彩る=和歌山市

 「ぶらくり丁」。和歌山市役所近くに、一風変わった名前の商店街がある。店がたくさんあって、ぶらぶらするだけで一日過ごせる。そんな意味かと思っていたがそうではなかった。

 「店先に、洋服やカバンやらをぶらくって(ぶら下げて)売っていたかららしいよ」。そう教えてくれたのは、ぶらくり丁の一角で50年以上、喫茶店を営む高木和子さん(80)。夫の淳彰(ただあき)さん(87)と二人三脚で切り盛りしている。

 和歌山城のお膝元にある同商店街は、江戸時代後期の文政年間(1818~30年)には一大繁華街だった。当時から多くの店が軒を連ね、間口が狭かったことから、買い物客の目を引くようにと目玉商品を軒先につるしたという。そのにぎわいは30~40年前まで続いた。歩くだけで人の肩にぶつかってしまうほどで、大阪・ミナミのような活気だったという。しかし今や、他の地方都市同様シャッター通りが増え、休日も閑散としている。

 往時の華やかさをしのばせるのが、高木さん夫婦の「純喫茶ヒスイ」。創業は昭和30年代で、3階建ての白壁の建物は窓がステンドグラス。中は一部が2階まで吹き抜けで、天井にはシャンデリアがあり、白い手すりは宮殿の欄干を思わせる洋風仕立てだ。

 おすすめは430円の手作りケーキセット。淳彰さんがスポンジを焼き、和子さんが生クリームやフルーツを盛りつける。「昔は神戸から職人さんが来ていたので教えてもらったんです」と淳彰さん。「外の業者に頼んだらこの値段では売れないねえ」。和子さんが相づちを打つ。

 かつて2階は、お見合いの場にもなった。「うまいこと結ばれたカップルもいたかなあ。あんまり深く聞きませんでしたが」と和子さんは笑みを浮かべた。

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