正論

「日米同等」が安保法制の主眼だ 拓殖大学特任教授・森本敏

不安定化増す東アジア情勢

安倍晋三政権にとって、今年も経済・財政・景気・地方創生が最重要であることに変わりはない。消費税再増税の期限が切られていることもあり、デフレ脱却を達成し高い支持率を維持しないと、その他の課題を処理していくことはむずかしい。

その課題には安保法制、テロ対策、原発問題を含むエネルギーミックス、沖縄基地問題、日韓・日朝関係、日中・日露関係、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などが含まれる。

これらの中でも、最優先課題が安保法制の整備であることは言うまでもない。今年は戦後70年という節目にあたるが、東アジアを含む国際情勢は不安定であり、中国は確実にわれわれの周りに勢力を伸ばしてきている。

安保法制の主眼は、昨年7月の閣議決定内容とこれを基礎にして日米間で協議しているガイドラインの結論に基づいて、日本が果たしうる安保・防衛面での役割と機能を実行するのに必要な法整備を行うことである。

これは(1)「存立事態」への対応、即(すなわ)ち、日本と密接な関係にある国が武力攻撃を受けた場合、新3要件を満たすときに日本が自衛のために行使しうる集団的自衛権(2)自国の安全維持のための自衛権行使(3)国際の平和と安全のために活動する他国軍への支援活動を「現に戦闘を行っている現場」以外の場所で行う支援・協力(4)国連平和維持活動(PKO)の「駆け付け警護」「任務遂行のための武器使用」(5)「邦人救出」および武力攻撃に至らない侵害(グレーゾーン)への対処-に要約される。

すでにこれを実現する法体系の骨格案について、与党(自公)協議が始まっている。骨格案の焦点となるのは、特に、(1)と(3)についてであるが既存の法体系を改正することだけで対応できるのか、「周辺事態法」や「武力攻撃事態対処法」の扱いをどうするのか、新たな法制を制定する必要があるのか-という点である。

地理的枠組みは設けるな

どのような法体系にするにせよ(1)いかなる場合にどのような種類と内容の行動を可能とするのか(2)自衛権行使の範囲や武力行使の程度・条件・手続き・権限委任をどうするか(3)国会の関与を含めた「事態認定」や、米国だけでなく他国や国連などとの「調整メカニズム」をどうするか-といった問題が含まれる。

「周辺事態法」はその成立の趣旨にかんがみれば、これらの諸問題に対応できるとは考えにくいし、行動や対応に地理的枠組みを設定すべきではないだろう。

法体系の骨格について政府・与党内の調整が完了すれば、首相の決裁を経て法案作成を行い、できた法案について再び与党協議を経て閣議決定を行い、国会に提出され審議される。

同時に、これがガイドラインの協議に反映され、その結論を得るのは4月の統一地方選挙後になるだろう。しかし、法案が国会に提出されるのは予算成立直後になると思われる。今次国会の審議日程が厳しいためである。

18年前に現在のガイドラインが合意されたときは、それを実効性のあるものとするために、その後5~6年かけて一連の有事法制を整備した。しかし、今回は日本側の政策方針変更に伴って、できることを基準にガイドライン見直しを結論づけるという順序になろう。とは言え、ガイドラインと安保法制は緊密に連携しており、順序や時期は大きな問題ではなく、その趣旨はわが国の安全保障を強化することに他ならない。

日米をイコールパートナーに

要は、安保法制の目的は日米同盟の片務性(米国には日本防衛の義務があり、日本には米国防衛の義務はない)をどこまで解消して同盟の質を向上し、日米をイコールパートナーにすることができるかということである。さらに「これだと日本は戦争に巻き込まれる」という一部の世論にある心配と、どう調和させるかである。

しかし今回のイスラム国(ISIL)テロによる邦人人質の事案を見ても、日本だけが安全な状態に身を置くことは到底不可能である。安全保障政策とは将来を展望し、不測の事態に対応できる措置と対策を確実にとることである。

さらに安保法制の整備は今までと種類の異なるリスクが発生する可能性はある。例えば安保法制に基づいて活動する自衛隊は、新たな種類の任務を実行するのに際し、今まで経験しなかったリスクを負うかもしれない。しかし、現在の自衛隊にこれらの諸活動を効率的に実施できる態勢や体制が整っているわけではない。

今後、防衛省・自衛隊の組織や装備、部隊行動基準、訓練マニュアル、指揮官や隊員の意識改革、教育・訓練などを抜本的に改善しなければならない。これは日本が今後、直面するであろう不安定な国際社会の中で、国家と国民の安全を確保するためには是非整備しておかなければならないもう一つの課題なのである。(もりもと さとし)

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