川端康成の未発表短編「星を盗んだ父」 外国文学、演劇…最初期知る貴重な資料

 日本人で初めてノーベル文学賞を受賞した作家、川端康成(1899~1972年)が、25歳のころ書いた未発表とみられる短編「星を盗んだ父」の直筆原稿が見つかり、文芸誌『新潮』3月号に掲載されている。ハンガリー人作家の戯曲を翻案したもので、専門家は「外国文学や演劇に強い関心を抱いていた川端の最初期の活動を知るうえで貴重な資料だ」と話している。

 川端研究で知られる和洋九段女子中学校・高等学校(東京)教諭の深沢晴美さんが、川端の筆跡であると確認した。茨木市立川端康成文学館(大阪府)が平成7年に古書店から購入していた。

 「星を盗んだ父」は400字詰め原稿用紙22枚に黒インクで書かれている。筆跡や原稿用紙の型などから東京帝国大卒業から間もない大正13年ごろに執筆されたとみられる。原稿に校正の跡はなく、不況などのため未発表のまま出版社の手元に残っていた可能性が高いという。

 深沢さんによると、作品のもとになっているのはハンガリーの作家、モルナール・フェレンツ(1878~1952年)の戯曲「リリオム 或るならず者の生と死-裏町の伝説、七場-」(1909年)。全7場でできた戯曲を、川端は叙情性や童話的な色彩の濃い最終場を生かした3段落構成に変えた。

 登場人物、リリオムの「ならず者」としての側面よりも、生まれてくる子供のために罪を犯して自殺し、天上にある星を盗んで娘に渡そうとする父親としての愛情を前景に据えた独自性の高い物語に仕立てた。また原文にはない人物の心理描写や春の豊かな情景描写などにも新感覚派といわれた川端の感性が息づいている。

 深沢さんは「すでに神秘的、心霊的なものへの傾倒が見てとれる興味深い作品」と話している。

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