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抗えぬ世の流れ、愛煙家の「楽園」国会のいま (3ページ目)

“骨抜き”にされた規制、専用室は衆院46カ所、参院29カ所

 衆参の事務局によると、国会内の喫煙専用室は衆院46カ所、参院29カ所。国会議事堂に加え、ご紹介したように衆参の議員会館にはほぼすべての階に喫煙室がある。喫煙所が屋外にわずかしかない「霞が関」の各省庁の建物と比べれば、雲泥の差だ。その訳は、18年に成立した改正健康増進法にあった。

 17年3月に厚生労働省が公表した政府原案の段階では、国会は行政機関の庁舎や大学などと同じく「屋内禁煙(喫煙専用室設置も不可)」の対象だった。ところが、自民党の法案の事前審査などを経て18年、正式に国会提出されてみると、国会の規制は緩やかな「原則屋内禁煙(喫煙専用室でのみ喫煙可)」に変わっていたのだ。

 この修正の間、厚労省と、厳しい規制に慎重な自民内のグループの間で激しいバトルが展開された。ただ、攻防の主役はあくまで居酒屋やバーなど飲食店におけるたばこ規制の在り方であり、国会に関わる“骨抜き”ルールは世間の耳目を引くことなく、ひっそりと決着した。当時の経緯を衆参両院の事務局に尋ねてみたが、「(法案)提出時点でそうなっていたから分からない」と予想通り、にべもない回答だった。

 愛煙家の私としてはその背景を探り、今、吸い続けるための理論武装をしておく必要がある。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。永田町の禁煙派を束ねる重鎮の元を訪ねてみることにした。超党派の「国際基準のタバコ対策を推進する議員連盟」会長を務める、自民党の尾辻秀久元参院副議長=参院鹿児島選挙区。ここからは、80年の人生で一度もたばこを吸ったことがないという尾辻氏との問答である。

禁煙派に漂う余裕「世の流れは禁煙」

 まず、政府原案の国会部分が骨抜きになった理由を質問した。回答は「ひと言で言うと、国会の喫煙族の力が強いちゅうこと。それだけのことだよ」。

 尾辻氏によれば、健康増進法改正を巡る自民の党内手続きでは、国会に関わる話題はゼロに近かった。当時、「たばこ理解派」の自民議連メンバーが300人近い陣容を誇った一方、禁煙派は野党を含めた超党派でも60人規模であり、まさに多勢に無勢。「力関係の違いから、なんとなく雰囲気で国会は(厳しい規制対象から)抜け落ちた」のだという。

 そもそも、議員といえば喫煙者が多いイメージがある。尾辻氏は「政治の世界に生きるってのはストレスがたまる。たばこは大きなストレス発散方法なんだろうね」。そう愛煙家の議員のメンツも立ててあげた後、涼しい顔で言い切ってみせた。

 「今は(喫煙派と)議論しても、正直言って禁煙派の方が余裕があるんだよ。『たばこは健康に悪い』というエビデンス(証拠)があるし、最後は俺たちが勝つんだから。世の流れは禁煙。気が付いたら(国会も)禁煙。どうせ、時間が解決する」

「世の流れは禁煙」と語る禁煙派の重鎮、自民党の尾辻秀久元参院副議長

 先生、おっしゃる通りです。

 国会では20年4月の改正健康増進法の全面施行以降、屋外にあった複数の喫煙スペースが姿を消した。法的には何ら問題なかったが、「煙が建物内に入る」との苦情などが決定打となった。喫煙者の側から見ると、国会におけるたばこの吸いやすさは年々、着実に後退していっている。

 今回、私は永田町で何人もの同志の声を集めた。多くが本音で望んだのは、分煙を徹底した上での「共存」だった。

 インタビューの最後、私はまるで哀願するかのように尾辻氏に問うていた。「喫煙者と非喫煙者。どうにか、共存できないものでしょうか」。だが、淡い期待は打ち砕かれた。救済の言葉の代わりに、重鎮は容赦なくぴしゃり。「無理だろうね。もう世の禁煙の流れは、誰にも止められないよ」

 

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