イチローと打順―米国の「3番最強説」は本当か
スポーツライター 丹羽政善
米国ではマリナーズのイチローの打順変更の可能性がささやかれているが、日本とアメリカでは打順に対する考え方に違いがある。
たとえば2番。日本では器用なタイプの選手が起用されることが多いが
A・ロッドもかつて2番を打つ
例を挙げるなら現在はレンジャーズのエイドリアン・ベルトレがマリナーズにいたころ(05~09年)、毎年、25本塁打、100打点を期待されるようなクリーンアップタイプだったのに、06年と07年の2年間は2番を100試合以上も打った。
1番のイチローが塁に出れば、投手は変化球を投げにくくなる。2番打者は球種の的を絞りやすくなるから、不振の打者の調整に向いている――というのがその理由で、役割は二の次だった。
これは極端な例としても、エンゼルスでは通算281本塁打の強打者、トリー・ハンターが2番を打ったり、現役最多の通算629本塁打を放っているヤンキースのアレックス・ロドリゲスもマリナーズ時代は2番に入ることがあった。
■監督は、最適の打順求め試行錯誤
過去、松井秀喜もヤンキース時代に2番を打っているし、城島健司がマリナーズ入りしたときも、当初は2番が予定されていた。
ただ、そうした考え方がどうであれ、日本でもアメリカでも打順を考えるとき、いかに効率よく得点につなげるかという目的そのものは変わらない。チームの指揮官は、選手の好不調も見極めながら、組み合わせの試行錯誤を繰り返す。
その手助けとなりそうなデータがある。野球のセオリーを検証した「The Book」という本に、打順ごとのヒットがどのくらい得点価値を持つのかが掲載されている。
打順ごとに安打の得点価値を算出
まず、1999年から2002年の試合データを基に、シングルヒット、二塁打、三塁打、本塁打、三振、四球など、オフェンスにおいて起こりうるすべての事象を拾いだし、それぞれの得点価値を算出。たとえば、その回の先頭打者がシングルヒットで出塁した場合、そのヒットは平均0.41点の価値を持つとした。
次に打順ごとに安打の得点価値を調べ、1番打者の単打は0.468点、4番打者のシングルヒットは0.504点の価値を持つという結果を紹介している。
この違いは、4番打者の方が走者を塁において打席に立つことが多いからで、1番打者が走者を塁において打席に立つ確率は平均で36%、4番打者の場合は51%だそうだ。
そして、彼らはそこから1番打者の打席数が多いことなどを考慮したバージョンも作成している。
■定説を覆す結果
これを見ると、定説を覆す結果が出ている。
同書も強調しているが、データはチーム最強打者を3番に置いてはいけないことを示しているのだ。
たとえば、シングルヒット1本の価値で見ると、4番の0.517点がトップで、1番と2番が0.515点で並び、その次は5番の0.513点だ。
3番の価値はようやくその次で0.493点である。この結果は他の安打の得点価値においても似通っていて、1~5番の数字を比べた場合、本塁打以外は3番打者の得点価値が他を下回っていることがわかる。
これは決して3番打者が劣っているのではなく、他の打者よりも2死で打席に立つケースが多く、それでヒットを打ったとしても無駄になっているケースが多いと推測され、能力というよりは打順の性質を表しているといえる。
■3番打者はチームで5番目?
この結果によるなら、チーム最強の打者を3番に置くのは"もったいない"と いうことになり、ヒットの得点価値を考えれば、1、2、4番にそのチームの好打者3人を並べるのが理想だと「The Book」は指摘する。
そのあとは5番、3番の順でそのチームの4番目、5番目に優れた打者を起用し、6~9番は、残った打者の中で上位の打者を順に配置するのがいいそうだ。
1、2、4番は、より長打の多い打者を4番とし、1、2番に関しては特に数値に違いはないので、盗塁などを考慮した場合、1番にはより足の速い選手を配し、2番はシングルヒットと三振の少ない打者がいいのでは、と提案している。
イチローは何番が理想か
もちろん、これらの数値は平均によるものであり、チームによっては1、2番の出塁率も違うはず。このため、3番打者のヒットの得点価値が4番の数値を上回るケースもあるだろうが、サンプル数もそれなりなので、参考にはなるだろう。
では、こうしたデータを元にした場合、イチローは何番が理想か、ということになるわけだが、それはマリナーズの戦力がまだ固まっていないので、2月のキャンプに入ったときにシミュレーションしてみたい。
打順変更を前提とするならば、おのずと結果は見えているのだが……。