有機EL、進む中国頼み JDIがHKCに虎の子技術供与
ジャパンディスプレイ(JDI)は10日、中国のパネル大手、恵科電子(HKC)と有機ELパネルの量産化で提携すると発表した。JDIが技術を供与してHKCが2025年の量産を目指す。有機ELは韓中勢が席巻する。JDIは赤字経営が続き、資金力で劣る。虎の子の技術を差し出して量産を目指す格好で、中国頼みが強まる。
JDIのスコット・キャロン会長兼最高経営責任者(CEO)は10日に都内で開いた記者会見で「新工場の投資額は数千億円規模になる」と述べた。JDIの有機EL技術を使い、HKCが中国国内で工場を建設する。JDI側は工場建設への直接的な投資は行わなず、技術者を送るなどして対価を得る。
新工場にはテレビ向けパネルの生産にも対応できる8.6世代と呼ばれる大型設備を導入する。キャロン氏は「重厚長大型の投資をせず、アセットライト(資産圧縮)を目指す」と話した。日本国内には共同の開発センターを新設する。
ディスプレー市場では液晶より画質が鮮明な有機ELへのシフトが進んできた。調査会社の英オムディアによると、22年の世界の有機ELパネルの出荷金額は426億ドル(5兆6000億円)で10年前から6倍に急増した。
特にスマホ向けの中小型市場で液晶が有機ELに置き換わっている。米アップルのiPhoneや韓国サムスン電子のGalaxyなどスマホの旗艦機種で有機ELの採用が広がり、大型テレビや仮想現実(VR)用小型ディスプレーなどでも市場が拡大している。
メーカーは寡占状態だ。オムディアによると、22年の有機ELパネル市場は韓国のサムスンとLGディスプレー、中国の京東方科技集団(BOE)の上位3社が9割を占める。韓国や中国が活発な投資を背景にシェアを伸ばし、製品の価格競争も進む。
JDIは23年3月期まで9期連続で最終赤字が続く見通しで、投資余力が乏しい。主力の茂原工場(千葉県茂原市)で有機ELパネルを量産するが、スマートウオッチ向けなどの小型サイズの採用にとどまる。BOEやサムスンなどは大規模工場で量産しているため、コスト競争で太刀打ちできない窮状が続いていた。
「コスト競争力の高いHKCと組む。これは戦略提携だ」。JDIのキャロン氏はこう強調した。
HKCは中国・深圳に本社を持つパネルメーカーで、中国政府の関連機関が約2割が出資する。JDIによると液晶を中心とするパネル市場で世界3位という。有機ELは開発段階にとどまり量産にどう踏み切るか手立てを探していた。
HKCは、JDIが持つ製造工程が簡素な有機ELの製法に強い関心を持つ。BOEやサムスンより低コストで有機ELを量産できる可能性があり、後発組のHKCはJDIと組んで上位勢への巻き返しを図る構えだ。
ディスプレー産業に詳しい米調査会社DSCCの田村喜男アジア代表は「有機ELの量産技術はまだ確立途上だ。今回のHKCとJDIの中日連合にも勝機がある」と提携を評価する。
JDIはソニーと東芝・日立製作所の中小型液晶ディスプレー事業を統合し12年に発足した。有機ELパネルへの出遅れや中国メーカーとの価格競争の激化で経営不振が続く。起死回生の一手とすべく、独自技術をもとに他社との協業によるライセンスビジネスを模索してきた。
国産の有機EL事業を巡っては、日本政府の主導で15年に発足したJOLEDが23年3月末に経営破綻した。JDIはJOLEDのスポンサーとして事業を継承し、技術者約100人を受け入れる。シャープも経営危機で16年に台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったが、大型液晶パネルを生産する子会社は業績が低迷し、有機EL生産は少量にとどまっている。一時代を築いた国内のパネル産業は海外勢に頼らなければ復活の戦略を描けない土俵際に追い込まれている。
(松浦奈美、向野崚)
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