旭化成名誉フェロー 吉野彰(2)北摂生まれ
里山駆け巡りトンボ釣り 父は電気技術者、母は元銀行員
物心ついていちばん初めの記憶は、3つ下の妹が生まれたときの様子だ。当時、病院ではなく自宅で出産するのが普通だった。母が早めに産気づいたらしいのに、頼んでいた助産婦さんはまだ来ていない。お湯は沸かないのか、お手伝いはいつ来るのか、と家じゅうが大騒ぎしていた。
家があったのは北摂と呼ばれる大阪府北部、吹田市の千里山である。当時は丘陵地のあちこちに竹やぶが茂り、その間に農地が点在する里山が広がっていた...
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スマートフォンやパソコンなど私たちの身の回りの様々な機器を動かしているリチウムイオン2次電池。これを開発し2019年のノーベル化学賞に輝いたのが旭化成名誉フェローの吉野彰さんです。手がけた研究テーマがなかなか実らない苦しい時期に運命的に出合った「電気を通す樹脂」。そこから電池開発に乗り出すも、次から次へと難題が持ち上がり――。諦めない精神と柔軟な発想で道を切り開いてきた、希代の企業研究者の物語です。