ウミガラス復活手応え 絶滅危惧種生息の北海道・天売島
絶滅危惧種ウミガラスの繁殖地、北海道羽幌町の天売島で今年、16年ぶりの2桁となる10羽のひなが巣立った。約50年前には8千羽が島の岩場を埋め尽くしていたが、現在、島で繁殖するのは20羽前後。トキと同じ道をたどらせまいと、手探りで保護活動を展開する島民らも沸いている。
ウミガラスは体長約40センチの海鳥で、黒い体で腹が白く、「空飛ぶペンギン」とも表現され、鳴き声から「オロロン鳥」とも呼ばれる。繁殖の南限とされる天売島は、国内で唯一確認されている繁殖地だ。
青、緑、黄などにほんのり色づいたごま模様のウミガラスの卵は、かつて島中で見られた。島に住む70代の男性は「ものすごく奇麗だった」と振り返る。半分に切った殻はぐい飲みとしても珍重された。漁網に掛かって死んだ鳥は剥製にされ、民家に飾られた。ひなをペットとして育てる子供もいるほど身近だった。
だが1960~70年代に本州から数百隻単位で押し寄せたサケ、マス漁船の流し網に掛かったことや、餌のニシンの減少などで激減。80年代に600羽まで落ち込んだ。
「このままではウミガラスを失ってしまうかもしれない」。島で海鳥の観測を続ける自然写真家寺沢孝毅さん(52)ら23人は88年、保護対策委員会を立ち上げた。
約400人の島民には家庭ごみの放置で天敵のカラスが増えたり、野生化したネコが鳥を襲ったりしていることを伝え、海鳥保護の意識を浸透させた。寺沢さんは島民と協力してウミガラスを数え、環境省に情報提供。親鳥を誘引する鳴き声スピーカーや模型の効果をロシア極東サハリン州まで確かめに行った。
熱心な活動に環境省や道も動かされ、保護事業が本格化。91年に絶滅危惧種に指定され、2004年には環境省の現地事務所が設置された。
環境省は今年4月、巣の内部にカメラを初めて設置した。ひながカラスなどに襲われた際に逃げ込めるシェルターも早急に設置する方針だ。寺沢さんは環境省が設置したウミガラス保護の検討会委員になり、保護政策に提言を続ける。寺沢さんは「少しずつ成果が出ている。ウミガラスがすみやすい環境づくりを進めたい」としている。