熱中症にかかる馬は14倍に 暑さ対策にシャワーも登場
7月も終わり全国的に梅雨明けの季節を迎えた。新型コロナウイルス対策に頭を悩ませている間に、夏競馬の舞台も福島から早くも新潟へ。夏の暑さもこれから一段と厳しさを増していく。
暑さは競走馬の大敵だ。確実に気温が上昇している地球温暖化の影響は、避けて通れない問題となる。競走馬の熱中症の数だけを見ても顕著で、2000年の中央競馬における熱中症発症数が僅か3頭だったのに対し、04年に2桁の10頭に増え、10年に24頭、11年29頭、12年36頭と増加の一途をたどり、17年には41頭にまで膨らんだ。
このタイミングで競走馬の暑熱対策の一つとして登場したのが、小倉競馬場のパドックに設置されたミストだった。同年夏に運用開始。真夏の日差しが降り注ぐパドックを周回しながら、各馬がミストで涼をとる映像は、当時とても新鮮で涼しげに映ったことを記憶している。
その後、ミストは全国の競馬場に広がり、現在パドックに設置されているのは札幌(簡易)、福島、新潟、中京、阪神、小倉の6競馬場。装鞍(そうあん)所に設置されているのは札幌以外の5カ所。馬場内の待避所の場合、本州以南の8競馬場全てに設置されている。
■気温30度で7割の競走馬が利用
7月に終了したばかりの福島競馬場では、ミスト以外にも様々な暑熱対策がとられてきた。装鞍所の集合時間を5分遅くしたり、パドックを周回する時間も短縮したりした。距離が長く、馬への負担が大きい障害戦は、涼しい午前中に置かれた。そして、昨年から福島で試験的に運用され、関係者にも好評だった馬用シャワーが、今年は開催を通して本格運用されるはずだった……。「だった……」というのも、夏の福島開催は梅雨明けが遅れて悪天候が続き、夏の太陽にお目にかかることがほとんど無かったのである。
福島競馬場の北原和也・業務課長の説明では「試験的運用を始めた昨年初日の開催日も、悪天候で気温が上昇しませんでした。肌寒い中でのシャワーの利用は、レースに使った馬の4割ほどにとどまりました。これが、天気も良くて気温が30度近くなってくると馬シャワーを利用する競走馬も当然多くなってきます。最も使用数が多かった日で、出走167頭中121頭が使用していました」。実に7割以上の競走馬が利用していた計算になる。
福島競馬場の本格的な馬用シャワーの運用のため、今年は配管工事を行い、昨年以上に水量が確保できるよう準備されていた。昨年までは片側だけに設置されていたシャワーも、対面式のもの(両サイドに設置)に改め、レースを終えた馬がシャワーの下を周回し続けることによって、馬の体を継続的に冷やし続けることが可能になった。
「今までの暑熱対策の多くがレース前のものだったのに対し、馬用シャワーはレース後のヒートアップした体を短時間でクールダウンさせる効果が期待されています」
■10分浴びる程度で平熱まで体温は下がる
実際、炎天下を走ってきて、レース直後に41度まで体温の上がった馬が、30分の歩行運動だけで調整した場合は約40度までしか下がらなかったのに対し、馬用シャワーを10分程度かけ続けることで、平熱の約38度まで体温が下がったというデータもあるそうだ。冷却効果は歴然である。また、従来は厩務員が馬を引く間に、もう1人の厩舎関係者がバケツなどの水でクールダウンさせていたが、シャワーがあれば1人のスタッフで作業が可能になるのも大きな利点である。
夏の福島開催でシャワーを浴びている競走馬を一度はこの目で確かめようと、何度か後検量の場所を訪れてみた。だが、タイミングが合わなかった上に悪天候も重なり、なかなかお目にかかることができなかったが、最終日(7月19日)にやっと、実際に見ることができた。
この日は朝から晴れ間がのぞき、夏の日差しとともに気温も30度を超えた。待望の真夏日となったのである。北原課長も「競走馬にとっては気温が高くない方がよいでしょうけれど、開催を通じて馬シャワーの出番がないというのは寂しいですからね。最終日は、夏の日差しで火照った体を馬シャワーで冷やし続けている多くの馬を見ることができました。昨年は武豊騎手にも褒めていただいて、関係者にも好評でした。今年から阪神や新潟、小倉でも馬シャワーを取り入れています」と話してくれた。
月が変わって酷暑の季節を迎える日本列島。新潟や小倉で、馬シャワーの活躍の機会もさらに増えることになりそうだ。
(ラジオNIKKEIアナウンサー 木和田篤)