「ざざ虫」食文化がピンチ 長野・伊那、後継者不足
川の浅瀬に生息するトビゲラやカワゲラなど水生昆虫の幼虫「ざざ虫」を食べる文化が消滅の危機に面している。長野県伊那市を中心に天竜川上流域で食用とされていたが、漁師の高齢化と後継者不足が深刻化。地元自治体は「貴重な文化を絶やさない」として、漁体験会開催などで若い世代への継承に力を入れる。
1月末の天竜川。地元の農業高校の生徒向けにざざ虫漁体験会が開かれ、3人の漁師が伝統の技を披露した。50年以上漁を続ける中村昌二さん(78)が、「かんじき」と呼ばれる鉄製のチェーンを付けた長靴で浅瀬の石を転がし、浮き上がった幼虫を網で捕らえると、歓声が上がった。
漁体験後、つくだ煮を食べた3年生の今村大晴さん(18)は「さくさくしてエビのようなおいしさ。漁も楽しかった」と笑顔を見せた。
ざざ虫は、つくだ煮などにして食用にする幼虫の総称。水が「ざーざー」と流れる浅瀬に多く生息することが語源とされ、かつては貴重なタンパク源として重宝された。
漁は、虫が脂肪を蓄える12月から2月がシーズン。地元の漁協組合に加入し、毎期、許可証を得る必要があるが、1994年の78人をピークに減少し、今期は69~85歳の10人。組合の原隆義理事は「少し前は40代の人もいたが、台風で虫が流されて不漁が続いた時期があり、来なくなってしまった」とこぼす。
中村さんも農業や社会福祉施設勤務の傍ら漁を続け、年に20日ほど漁に出てきたが、今は「体力の問題もある」と日数も減っているという。
県や市は今後も伝承活動を続けるほか、都内にある県のアンテナショップでの試食会などPRも強化する方針。市の担当者は「伝統文化の良さを知ってもらい、生活の一部として残していければ」と話している。〔共同〕