東電、脱・自前で自由化戦う 子会社で通信再参入発表 「他力」でサービス拡大
東京電力ホールディングス(HD)は22日、子会社が通信事業に再参入すると正式発表した。東電は電力自由化以降、通信会社などからの参入が増え、顧客基盤を維持するためにもサービス強化が必要な状況だ。福島第1原発事故への対応で、自前で使える資金には限りがある。子会社の活用や他社との提携を通じて収益源を広げ、縮む経営を回避したい考えだ。
今回通信事業への参入を発表した「PinT」は、東電HD傘下の主力小売事業者、東京電力エナジーパートナー(EP)が60%、電力システム関連のスタートアップのパネイル(東京・千代田)が40%を出資して4月に設立した新電力会社だ。6月に全国での電力販売を始め、9月には関東での都市ガスの販売を開始。数万件の顧客を獲得している。
PinTは電気通信事業者の届け出を済ませ、22日からNTT東日本エリアで家庭向けのインターネット接続サービス「TEPCOひかり」の販売を始めた。NTT西日本エリアでも2019年夏のサービス開始をめざす。PinTの電気や都市ガスとセットにすることで、合計料金を割り引く。20年度までに電力・ガス・通信で150万件の獲得をめざす。
東電は通信自由化で業界に参入したが、07年にKDDIに事業譲渡して撤退した。今回の再参入では当時手掛けていた自社の名称「TEPCO」を冠する通信サービスを、他社の資本も入る子会社の新電力で展開する。自前で手掛けていた設備構築や工事も、NTTのネットワークを活用して負担を抑える。
東電とPinTを共同で設立したパネイルは、クラウドを使った効率的な顧客管理システムを強みにする。約2000万件の顧客を持つ主力の小売事業者の東電EPでのサービス拡張は「システムが巨大で複雑なので時間がかかることが多い」(東電関係者)ため、パネイルと組むことにした。
電力業界では16年の小売り全面自由化以降、東京ガスやKDDIなど多種多様な事業者が参入しサービスを展開している。一方で東電は福島第1原発事故の処理で16兆円の捻出が必要。変化が激しいエネルギー業界で東電は「外部の力の活用や、小回りのきく子会社でのサービス拡大が必要」(東電関係者)な状況だ。
4月に東電HDが設立した新電力の「TRENDE(トレンディ)」は9月に昭和シェル石油からの出資を受け入れた。都市ガス販売では17年に日本瓦斯(ニチガス)と共同出資会社を設立。かつて通信自由化でライバルだったNTTとも7月に蓄電池を活用する事業を展開する共同出資会社を設立した。
東電の矢継ぎ早の提携に「事業や提携の整理・精査が十分できていないのではないか」(新電力関係者)という声も漏れる。今回の通信の再参入などスピード重視の事業拡大が続くが、収益や顧客増など、成長につながる結果も求められる。