世界のきゃりーぱみゅぱみゅ 海図を描いた男たち
今年、11カ国を横断する世界ツアーを実施、3万5千人を動員したきゃりーぱみゅぱみゅ。配信楽曲が各国のiTunesストアで上位に入るなど、世界で最も成功した日本人アーティストの一人だ。カラフルな衣装や独特の世界観に目が行くが、世界ヒットの裏には綿密な海図を描いた2人の男がいる。15日まで東京・代官山で開催された音楽、インターネット、スタートアップ(新興企業)の業界横断イベント「ザ・ビッグ・パレード」に2人が登壇、成功までの道筋を明かした。
きゃりーの所属事務所アソビシステム(東京・渋谷)社長の中川悠介氏と、レコード会社ワーナーミュージック・ジャパンでプロデュースを手掛ける鈴木竜馬氏が対談した。
中川氏は07年にアソビシステムを設立。歌手やモデルのマネジメントのほか、原宿文化の世界への発信も手掛ける。その中川氏がイベントで知り合ったのが、まだ高校生だったきゃりーだ。知己のあったワーナーの鈴木氏に話を持ち込むと「センスはぶっちぎり。音楽に携わりたいということで、二つ返事で答えさせてもらった」(鈴木氏)。
当初から中川氏の頭には世界展開があった。「原宿のファッションにオリジナリティーを見いだす外国人は多い。日本で作った日本語の文化を海外に持っていくとどうなるか。興味があった」。11年のデビューアルバムから切り出した楽曲「PONPONPON」は世界23カ国でのデジタル配信に先駆け、動画共有サイト、ユーチューブで公開した。
きゃりーは当時、未知数の新人で、ワーナーが販促に割ける予算は少ない。その状況で「きっちり作り込んだインパクトある映像を、ユーチューブというインフラを使って世界に発信した」(鈴木氏)。狙いは当たり、世界のセレブが評価してツイート、国境の壁を越える交流サイト(SNS)の趨勢と相まって、記録的な視聴回数となった。
きゃりーを一躍有名にしたフランスでの日本文化紹介イベント「ジャパン・エキスポ(JE)」。12年は2日間のライブで1万人以上を動員したが、イベント前にも入念な仕込みがあった。日本文化を紹介する仏CS番組に、中川氏は多忙の合間を縫って積極的にきゃりーを出演させ仏国内の知名度と関心を高めた。一方、ワーナー側の鈴木氏は「海外に出て行ったことを、どう日本にフィードバックするか」戦略を練る。メディアと接触、テレビの情報番組でJEでのきゃりーの人気ぶりが放送され、国内人気をあおる結果となった。
最初に欧米、そしてアジアへ。その流れも計算されたものだ。中川氏は指摘する。「アジアの人は日本(文化)の後ろに欧米を見ている。ヨーロッパで売れたきゃりーぱみゅぱみゅが、ついに台湾に来る、と。それで盛り上がる」。ワーナー側はグローバル企業の利を生かし、各国の現地法人の協力を仰ぎながらプロモーションをかける。
きゃりーは13年に初の世界ツアーを敢行、パリやロンドン、ニューヨークなど13都市でライブを開催した。イベント運営のノウハウが豊富なアソビシステムが会場選定などを手掛け、各国のワーナーの宣伝マンがそこにどう絡むか「世界中のワーナーの人に会った」(中川氏)。世界で2万8千人を動員した様子はテレビ番組で放送され、再び国内の話題となった。
鈴木氏は言う。「(海外で話題が)出たらいいな、伝播(でんぱ)したらいいなではだめ。(海外展開の)意思を持ち、仕込んで、結果をフィードバックする。伝播させる、という意思を持って最後までやりきることが大切」
Perfume(パフューム)やBABYMETAL(ベビーメタル)など、きゃりー以外にも、海外で人気となる日本人アーティストが出始めている。コンテンツやパフォーマンス力に加え、どう存在を世界にアピールするか。既存メディアに加え、無数のSNSが登場、普及する現代ならではの、有効な戦略も求められているようだ。
(松本史)