苦境の観光地、名産品ECで救え お取り寄せから新規客誘う
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)
コロナ禍で苦境にあえぐ業界を、ネットの力で消費者につなげようというプロジェクトが次々と立ち上がっている。特に打撃を受けた観光地への救済プロジェクトが成果を上げつつある。好例が「TASTE LOCAL(テイスト・ローカル)」だ。
この電子商取引(EC)プラットフォームは、リゾート施設の予約サイト「Relux(リラックス)」を運営するロコパートナーズの社長をこのほど退任した、篠塚孝哉氏が立ち上げた。篠塚氏が付き合いのあった旅館からSOSを受けたのが4月1日。そこから「高級旅館ならではの名物食品を直販するサイトを作ろう」と仲間を募り、4月10日にオープンした。
5月26日時点で36施設の76商品を扱う。伊豆「浜の湯」の「金目鯛姿煮」は4月だけで1000食を販売。山形「出羽屋」の「月山山菜そば」もやはり1000食前後で200万円の売り上げがあった。施設からは収入減を補うだけでなく「従業員が元気になった」と喜ばれている。
旅館は食品を加工する調理場があり、パッキングに慣れさえすれば直販に向いている。名旅館なら名物料理は1つはあるものだ。日曜日の夜や月曜日は比較的、従業員の手も空いている。当初、2カ月くらいの止血的なプロジェクトと位置づけていたが「ここでやめる選択肢はない」と篠塚氏は話す。
実は通販を収入源にするだけではない。「サイトでの買い物をきっかけに観光地を知り、出かけたくなるという、お取り寄せ起点の観光が見えた」(篠塚氏)。現在、オンラインで簡単に商品販売相談の申し込みができるようにしている。
他にも「観光・飲食・1次産業デジタルシフト支援プロジェクト」が走り始めた。オンラインで売ることに慣れていない企業に、一から指南するというものだ。第1弾として沖縄の企業に対して、ウェビナーでのオンラインショップ開設講座が5月18日から始まった。約25の業者が受講している。今後は自治体の支援なども受けて、全国に広げる計画だ。
旗振り役の森戸裕一氏は長年、総務省などから依頼を受け、地方のオンラインショップの立ち上げの支援をしてきた。一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会の理事も務める。誰に相談したらいいのかわからない事業者に最高のノウハウを、というポリシーのもと一流の講師陣をそろえた。
オンラインだから、またこのような状況だからこそのスピード感。「通常であれば会いにいって話さなければならないことも、今は全部オンラインでできるから早い」と森戸氏は話す。観光地の土産物屋の多くは、黙っていても客が入っていたため、オンライン販売に消極的だった。今こそ、いい機会である。
コロナ禍が一段落しても、県や地域をまたいでの旅行がすぐに復活するとは思えない。だからこそ、消費者としては好きな観光地のお土産が欲しくなるものだ。私も仙台に行くたびに駅の売店で購入していた名物のお菓子「萩の月」を初めてオンラインで購入した。また行けるその日まで、支えるためにできることを継続したい。
[日経MJ2020年5月29日付]