ラグビー日本代表にも選出経験があるトップリーグ・サントリーのプロップ垣永真之介(24)が、けがから戦線復帰へ少しずつ前に進んでいる。

 トレーニングジムに流れるアップテンポのBGMが、時折「ハッ!」という雄たけびにかき消される。14日、試合を翌日に控えたチームがグラウンドで調整する横で、垣永は1人黙々とトレーニングにいそしんだ。気合の雄たけびはトレードマーク。試合中も、スクラムを組む時は、特に出す。昨年スーパーラグビー(SR)のサンウルブズが始動した際の会見でも、先輩に促されて登壇時に叫ぶパフォーマンスをした。

 今季、その雄たけびを試合で聞いていない。早大で主将を務め、14年にサントリーに入社。すぐにジャパンにも選ばれた24歳は今季、出場が絶望的となっている。7月の北海道・網走合宿での練習試合中、右膝の靱帯(じんたい)に大けがを負った。「最低でも半年はかかる」。現在も右脚をかばいながら、少しゆっくり歩く。

 昨季はサンウルブズで大きな成長のきっかけを作った。今年3月、東京・秩父宮での開幕戦。ライオンズ(南アフリカ)にスクラムで圧倒された。「次元が違った」。隣で組む日本代表フッカー堀江翔太主将(30=パナソニック)に「絶対後ろに下がるな」とハッパをかけられ、最後のスクラムは持ちこたえるのが精いっぱいだった。ある選手は「まるでブルドーザーのよう」と表現する、フィジカル大国のスクラムを初めて経験した。

 その屈辱が糧になった。「野球で言えば中学生が大リーグに挑戦したようなもの」。体が小さな日本人はどう対抗すべきか。SRの経験が豊富な堀江主将から、組む時の姿勢など多くを学んだ。シーズンを通し、スクラムは徐々に安定した。SRの全日程を終えた後は「大リーグはまだまだ先だけど、県大会くらいまではきたかな」と謙虚に手応えを語っていた。

 悪すぎるタイミングでの大けがにも、表情に曇りはない。「もちろん悔しいけど、しっかり体を鍛える時間がこれまでなかったので」と、リハビリと並行してフィジカル強化に取り組んでいる。サンウルブズで知ったトレーニングも継続している。ただ現時点では、17年シーズンはサンウルブズではプレーしない方向だという。「まずケガを治すこと」と、選手生命にも関わる膝の回復に専念する。

 最近はSR参入でトップ選手の年間試合数が増えすぎたことがラグビー協会内でも課題となっているが、垣永は挑戦する意義を口にした。「プロ選手や経験のある人が考えるのは分かる。ただ僕らのような若手が遠慮するのはもったいない。田中さん(史朗、31=パナソニック)や堀江さんが、苦労して切り開いた世界。(日本代表の主力級である)山田さん(章仁、31=パナソニック)や松島(幸太朗、23=サントリー)ですら、海外では簡単には試合に出られない。そんなチームと試合ができるんだから。W杯で日本は急に強くなったように思われているかもしれないけど、南アに勝つほど強くなったのはあの時の31人だけですから」。W杯直前で日本代表から落選し、サンウルブズで苦杯をなめたからこそ、重い言葉だった。

 垣永に焦りはない。「今は(体よ)大きくなれ、と思いながらトレーニングしています」と、汗をぬぐって笑った。19年W杯日本大会の主力候補は、今が我慢の時。復帰戦の雄たけびが待ち遠しい。