サッカー元日本代表監督の岡田武史氏(66=日本協会副会長)が、夢を形にした。会長を務めるJ3今治の新本拠「今治里山スタジアム(里山S)」が愛媛・今治市内に完成し、オープニングセレモニーが29日に行われた。総工費は約40億円で、収容数は5316人からJ1基準を満たす1万5000人まで増設可能。クラブ経営に乗り出した約8年前の宣言を達成し、新スタジアム元年の今季こそJ2昇格を果たす。エキシビションマッチでは元日本代表の教え子と交流した。

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海賊船をイメージした新スタジアムから、岡田FC今治が新たな航海に出る。「J2、J1へ向かうための新本拠。本当に建つのか不安で仕方なかったが、夢を諦めなかった。単なるサッカー場にする気もなかった」と岡田会長。目指すは「365日、人が集まり、にぎわい、心の豊かさに包まれた空間」だ。セリエAユベントスのホームを視察して着想し、内閣府の地方創生委員だったころに交流人口を増やす施策として夢見てきた“船”を築いた。

経営権を取得して1季目の15年2月23日、岡田会長は「23年のスタジアム建設」をぶち上げた。「無理だ」「投げ出して帰るだろう」。懐疑的だった市民を巻き込んで17年に夢スタが完成。だがJ2基準を満たさないため、当初からJ1まで対応可の里山Sを念頭に土地の無償貸与を受け、地元企業や銀行から約40億円を調達し、設計を20年から進めてきた。極めて異例の民設民営方式。コロナ禍の資材高騰で遅れたものの約束の23年に間に合わせた。

「物の豊かさより心の豊かさ」とのクラブ理念を込める。「試合日しか使わないコンクリートのハコを造って、朽ちたら建て直す…そんな時代じゃない」。開催日以外も人が集うよう交流エリアなどを設け、今後も周囲に施設を増やして1年間にぎわう聖地へ。収容もJ2、J1昇格に合わせて1万5000席まで増設する。「まだ未完で成長していくスタジアム。ぜひ力を貸して」と呼びかけた。

この日は最高5500円の入場券を含む5316席がほぼ完売した。期待度は大きい。応える環境も整った。里山S元年のJ2昇格は絶対だ。開幕戦は3月5日、誇りのスタジアムに福島を迎え撃つ。【木下淳】